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秋風寒く衣うつ
秋風寒く衣うつ
会社の窓から目の下に海水浴場が見える。今日も好天で波間に頭がぽかりぽかりと浮いていた。エアコンの効いた社内では季節感覚などなくなってしまう。分厚いガラスと下ろしっぱなしのブラインドで陽射しもセミの声もシャットアウトされているから、短い休憩時間だけでも夏を満喫している人を見れば心踊るように感じた。
オフィスに詰まった人たちの体温で、室内はクーラーがかかっているのに汗ばむほどだ。早く涼しくならないものかと同僚と話しながら勤務を終えた。
社屋を出た瞬間、強い風に吹かれた。スカートをふくらませて通りすぎた風の冷たさに驚いた。ぶるりと身震いしたほどだ。空はもう暗く、昼間はなかった雲が南へ走っていく。夏の雲は西へ走ったものだ。そうか、もう秋なのか。
帰宅してカレンダーを見ると、立秋はすでに過ぎていた。風は何よりも早く季節を運ぶ。古い暦は風の匂いに敏感だ。
明日は一枚、羽織るものを持って出た方がいいだろうと思いながら半袖から出ている腕をさすった。




