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今日のおはなし  作者: 溝口智子
金の糸 15
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愚痴りナイト

愚痴りナイト

「がんばれって言う人の気がしれない」

 ぷりぷり、という擬態語が似合いそうな風情でヨシちゃんが怒っている。

「その人は『自分は手を貸さないよ』って宣言してるんじゃん。それなのに偉そうな顔してさ。正しいこと言ってます〜、みたいなさ」

 ヨシちゃんはいつでも何かに怒っている。蚊に刺されたと言っては怒り、赤信号に引っ掛かったと言っては怒り、鳩と目があったと言っては怒る。ヨシちゃんは鳩が大キライなのだ。

「出来ない上司ほど言うのよ。『もっとがんばれ』って。適切なアドバイスも指示もなしで『がんばれ』って、お前がもっとがんばれよ」

 ヨシちゃんは職場でも歯に衣着せぬから、きっと上司は同じ言葉を聞いているだろう。

「スポーツでもさ、『応援が力になりました』とか言うけど『がんばれ』って命令形よ? 命令されるのが嬉しいなんて、典型的な日本人的主体性のなさの現れよ」

 語気が弱まってきた。ヨシちゃんのぷりぷり、が終息に向かっていく。

「だからさ、思うわけ。『がんばれ』に代わるいい言葉はないかなって」

「たとえば?」

「やっちまえ!」

「命令形だよ」

「行くときは行くとこまで行かないと」

「じゃあ、もっと命令してみる」

「どなふうに?」

「ヤッチマイナ!」

「キル・ビルの真似? わかる人少ないんじゃないの」

「他には?」

「負けたらメシ抜き!」

「脅迫だね」

「負けたらビンタ!」

「体罰だね」

「負けたら帰ってこなくていいよ!」

「勘当だね。ヨシちゃん、ちょっと落ち着こうか。鼻息が荒いよ」

「わかった! 鼻息荒くしろ! これだ!」

「恋の相談を受けて『がんばれ』の代わりに『鼻息荒くしろ!』。実践しちゃったら新しいドラマの幕があがりそうだね」

「悲恋ものね」

「きっとね」

「うーん。もう思い付かないわ」

「もっとがんばれ」

「がんばらんわ!」

 ヨシちゃんがぷりぷり、という擬態語が似合いそうな風情で怒る。

 『がんばれ』の代わりはなかなか見つかりそうもない。

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