羊飼いの憂鬱
羊飼いの憂鬱
天の輝く羊の群れは規則正しく空を渡る。光りまたたく羊たちは大人しく、軌道をそれることはない。羊飼いのアルクトゥルスはただただ羊を見つめるばかり。
とくに羊たちの王、真っ赤に燃える大きな老いた羊は、すべての羊を従えて季節ごとに渡るべき空を示す。暇をもて余したアルクトゥルスは、すっかり仕事が嫌になって、ある日、羊たちを放って昼寝を始めた。
羊たちは太陽に従って空を渡り続けようとした。しかし羊飼いがいなくなると羊の王は大きな岩の影に隠れて輝きを消してしまった。
真っ暗になった空で羊たちは慌てた。王がいなければ空は広すぎて、どこへ行けばいいのか、さっぱりわからない。羊たちは輝きも忘れて、てんでにうろつき始めた。
アルクトゥルスは目覚めて空の暗さに驚いた。見渡しても羊が居ない。羊の王の強い光もない。慌てて探し回ると羊の王は岩影で眠り込んでいた。アルクトゥルスは必死に羊の王を引っ張ったが、羊の王の巨大な体を引っ張り出すには小半時かかった。
これに懲りたアルクトゥルスは、もう居眠りはすまいと決めたのだが、その決意は日常の退屈に紛れて、たまのこと、また眠りほうけて羊の王を探し回るということだ。




