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今日のおはなし  作者: 溝口智子
金の糸 15
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社会の窓が開いている

社会の窓が開いている

「社会の窓って言葉、誰が考えたんだろね」

 突然、話しかけてきた光世の言葉に、龍彦は作業の手を止め顔を上げた。

「社会の窓って何ですか?」

「知らないの、これだからユトリは」

 龍彦はぶすくれた顔をしてマネキンに着せた服の調整作業に戻る。狭いショーウインドウの中はクーラーの風も通らず蒸し暑い。

「なんでもかんでもユトリで責めるのはやめてくださいよ。好きでゆとり教育受けたわけじゃないんですから」

「ほら、すぐ言い訳する」

「いや、だから……」

「社会の窓が開いているっていうのはね、ズボンのチャックが開いているって意味よ」

「ボトムのジッパーが開いているんですね」

「なによ、言い換えるのやめなさいよね。感じ悪い」

「光世さん、喋ってないで手を動かしてくださいよ」

「動かしてるわよ」

 そう言いながらも光世の手は口ほどには動いていない。龍彦はあきらめて黙々と作業を続ける。

「でさ、なんで社会の窓なんだろね。窓はまだ分かるけど。なによ、社会のって」

「僕に言われても知りませんよ」

「少しは知恵を貸しなさいよ。脳ミソなまるわよ」

 道行く人がウインドウの中をちらちらと覗いて通る。この服はよく売れるかもしれない。

「あ、分かったかも」

 ウインドウの外を歩く人を見ながら、光世が手を叩く。

「開いてたら社会のみんなが見るからだわ」

 龍彦はおざなりに返事する。

「大発見ですね」

「うん。あんたのおかげだわ」

「僕の脳ミソはなまけていましたけど」

「脳ミソは使い物にならないけど、あんたのボトムはなかなかだわ」

「僕のボトム?」

「ボトムのジッパーが開いてるわよ」

 龍彦は慌てて自分の股間を手で押さえ、壁の方を向いてジッパーを上げた。

「早く言ってくださいよ!」

「言おうとしたら、あんたが社会の窓を知らないっていうからさ。話がそれちゃったのよ」

「変な言い訳はやめてください!」

 龍彦の顔は恥ずかしさと怒りで真っ赤だ。

「ゆでダコみたいになって怒るって言葉、誰が考えたんだろね」

「もういいですよ!」

 この日、龍彦は二つの古い言葉を覚えた。

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