無人島ふたりきりサバイバル
無人島ふたりきりサバイバル
あたしが木の棒で、木の枝を摩擦し続け、煙を出すことに成功した頃、彼が
「たえちゃ〜〜〜ん!お魚つれたわよ〜〜〜う」
と叫びながら駆け戻ってきた。
あたしは、ため息つきながら、彼から魚をうけとる。
「は〜い、ありがとう。じゃあ、焼くから。休んどけば?」
「うん!そうするわね!」
彼は、そう答えると、これから火がつくところの、タキギのそばにゴロリと寝そべる。
「も〜〜〜!!そんなとこに頭おいたら、燃えるから!あっち行って!!」
「あっそっか!てへ☆ごっめーーん!」
かわいらしく舌をぺろっと出して見せると、椰子の木陰に走っていった。
あたしは、ふかくふか〜〜いため息をつく。
三日前、
ハワイ行きの飛行機がエンジントラブルで海上に着陸(?っていうのか?)して、乗客は全員、救命胴衣でぷかぷかと波間に揺れていた。
「みてみて、たえちゃん!ドルフィンターン!!」
緊急事態にもマイペースを崩さない、友人のシゲチャン(オカマ)は
古生代に生息していたスイマーのターンを真似て見せ、そのまま、ばちゃばちゃと泳ぎだした。
「ちょっと!シゲチャン、どこ行くの!?」
「おほほほほほ!つかまえてごらんなさ〜い!」
「ふっざけんな、このオカマヤロー!待てって言ったら、待て!!」
「おっほほほほほ〜。いやなこってすわ!」
夕暮れ時、ヤツを捕まえて肩で息をしているとき、視界のどこにも飛行機が見えないことに気付いた。
乗客も、客室乗務員も、パイロットも、どこにも見えない。
見渡す限り、夕焼けに染まる赤い海で、そこには、アタシとシゲチャンしかいなかった……
くすぶっていた木肌に、乾燥させた椰子の葉を少しずつ揉みこんでいく。ガールスカウト仕込みが役に立った。
次第に火が立ち、あたしは枝に刺した魚を火であぶる。
見渡す限りの海原で、この島が見えたときは「シゲチャンとも仲良くします!」と神様に誓ったが。
上陸してしまえば、何のことはない。椰子の木が一本はえたきり、あとは砂地の、ちょっとした砂場だ。
食べるものも飲み水もない。
もう、ここで干からびるしかない…と覚悟を決めたが、なんと、シゲチャンがニホンザルもかくや、という敏捷さでスルスルと椰子の木にのぼり、椰子の実を二つ取って放り投げた。ぼすっ。ぼすっ。と二つの椰子の実は砂にめり込んだ。
木から下りたシゲチャンは、海岸から貝殻を拾ってきて、器用に椰子の実を真っ二つに割って、あたしに差し出した。
「はい!ど〜ぞ、たえちゃん」
あたしは「ありがと」と言って椰子の実を受け取り、まんまんと満ちている椰子ジュースを一気に飲み干した。
この世に、こんなに美味しいものがあったのか……。
甘露、とは、このことだろう。
あたしは、もう、一生、シゲチャンのことを「オイ!」と呼びません!二度と足蹴にしません!と神様に誓った…が………
次の日、あたしがスコールを椰子の実の器に溜めた水で、シゲチャンが水浴びした時。
はたまた、あたしが二時間かけておこした火を、シゲチャンが「しゅわっち!」と言いながら砂をかけて消した時。
「オイ!このどべたがあ!!」
あたしは腹のそこから叫び、シゲチャンにジャンピングニードロップをかました。
それでもシゲチャンはニコニコして「えへ、ごめんごめん、お魚釣ってくるから許して」
と、かわいらしく笑う。
しばらくすると、あたしはまた、火をおこしにかかり、シゲチャンは椰子の木の皮で作った釣具で釣りをする。
シゲチャンは神業級に釣りがうまいのか、このヘンの魚が好奇心旺盛なのか、釣具をたらすとバカスカ魚がかかる。
あたしはせっせと、魚の開きを作る。
そして、いつの間にか、シゲチャンのことを、ゆるしてしまう。
食料をとってくれる貴重な人材だ。
多少の頓狂な行動には目をつぶろう。
そもそも、こんな無人島に漂着した原因は、シゲチャンだし、その、そもそもの飛行機が不時着した原因のエンジントラブルも、こいつのせいではないかと、にらんでいるのだが……
如何せん。あたしはおなかがいっぱいになると、なにもかも、ゆるしてしまうのだ。
そうでもなければ、こんなオカマと、友達やってられるわけがない。
「ねえねえ、たえちゃん、見て!きれ〜いな夕日!」
しげちゃんが指差す西の空を見る。
大きな太陽が沈む真っ赤な空に、ぽつんと、一番星が輝いている。
おなかはいっぱいだし、寒くもない。なんか、こんな生活もいいんじゃないか?と思ってしまう。
「あ〜〜あ。今日も私の王子様は迎えに来てくれなかったな」
しげちゃんが言ったセリフに、はた、と現実に引き戻される。
「あたしの、結婚式〜〜〜〜〜!!!!!」
そうなのだ。
あたしは自分の結婚式のためにハワイに向かっていたのだ。
あたしの愛しのダーリンがハワイで待っているのだ。
「こんなところで、なごんでる場合じゃない!!シゲ!!船作るぞ!」
「え〜、私、力仕事なんかできな〜〜い」
「うっさい!働け、この、オカマ!!」
「どーせ、私はおかまですうー」
ぶーぶー言うシゲチャンの尻を叩いて、椰子の木の皮を編んでいく。
ぜったいに、ウエディングドレスを着るまでは、死ぬものか!!!
「あ〜あ。こんな女やめて、私を選んだほうが、信一郎さん、幸せよね」
ぼそぼそ言うシゲチャンに再び、ジャンピングニードロップ。




