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今日のおはなし  作者: 溝口智子
金の糸 15
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黒い天使

黒い天使

「ジャッキー!!」


明日香が声を張ると、近くの木の上から黒い影が、バサバサと風を巻きながら舞い降りてきた。明日香が地面と平行にのばした腕に、一羽のカラスがとまる。

誠は生まれて初めて間近に見たカラスの、思わぬ巨大さに、一歩しりぞいた。


「この子がジャッキー。ひなの時から私の友達。ジャッキー、こいつは誠。私の新しい友達だよ」


ジャッキーに真っ黒な瞳で見据えられ、誠はたじろいだ。今にもつつかれるのではないかと震えたくなるほどの迫力を感じる。カラスは猛禽類なのではなかったか、と自問する。

ジャッキーの様子を眺めていた明日香が、きつい眼差しを誠に向ける。


「誠、あんた、ほんとうのこと言ってないね?」


「え!?え!?いや、まさか!ほんとに君のおじいさんの遺言で、この山を売るようにって…」


「ギャア!!」


ジャッキーが大声で鳴いて激しく羽ばたく。誠は両手で顔をおおってうずくまった。

明日香はその様子を静かに見つめてから、口を開いた。


「ジャッキーが言ってる。あんたの会社はここらじゅうの山をみんな切り崩してしまったって」


「なに言ってるんだい?カラスにそんなことわかるわけないだろう?」


誠は頬を引きつらせながら必死で笑顔を作る。ジャッキーが「ギャア!」と叫ぶと、誠はびくりと半身を引く。


「カラスはいつも見てるんだ。人間の動きを、注意深く。とくに自分の縄張りを荒らすヤツのことは一生忘れない。ジャッキーの故郷は隣の山だ。あんたが山を崩す工事を指揮したこと、ジャッキーは覚えてるよ」


誠の口元がぴくぴくと細かく痙攣しつづける。


「カラスが覚えてたって、人間にカラスの言葉がわかるわけないじゃないか」


「言っただろ?私がひなの時からジャッキーと友達だったって」


「え?君がひな?」


「私は4才までカラスに育てられたんだ。カラスの言葉が私の母国語だ」


明日香は「ギャア!」と虚空に向かって吼えた。「ギャア!」ジャッキーが復唱する。

すると、あちらこちらから「ギャア!」「ギャア!」とカラスの吼え声が答え、次々とカラスがどこからともなく舞い降りてくる。

吼え声は間断なく続き、カラスたちがまるで黒い吹雪のように降ってくる。

息を荒くした誠がぐるぐると周囲を見渡す。

木の枝に小屋の屋根に窓のひさしに誠の車に地面の上も見渡す限り真っ黒に塗りつぶされた。あっという間だった。

踵を返し逃げようと足を踏み出した誠を「ギャア!」と目前のカラスが威嚇し翼を広げる。

誠は空気が抜けたゴム人形のようにふにゃふにゃとひざまずくと、両手で頭をかばってつっぷした。


「助けてくれ!かんべんしてくれ!俺が悪かった!いや、いや!会社が!会社が悪いんだ!俺じゃない!俺は悪くない!俺は悪くないんだ!!」


明日香は静かに誠を指差した。

無数の真っ黒な瞳が、誠を見つめた。

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