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今日のおはなし  作者: 溝口智子
金の糸 15
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天国へのチケット

天国へのチケット

「おおあたりー!」

 カランカランと盛大に鐘をならしておっさんが叫んだ。

「一等賞品は天国へのチケットでーす!」

 バーコード頭のその福引所のおっさんは、白いスモックに白い羽根、頭の上に光るわっかを乗せている。天使のつもりなのかもしれない。

「さあ、これが賞品です」

 手渡された紙切れにはスーパーのポップのような書体で「天国行き」とだけ書いてある。

「どうします、すぐ行きますか?」

 おっさんは、ぜひとも天国へ送り出したいらしい。鼻息が荒くなっている。

「これって片道チケット?」

「もちろんです!」

 チケットをじっと見つめて自分の人生を振り返ってみる。辛いこともあった。腹のたつこともあった。嬉しいことも楽しいこともたくさんあった。わりと良い人生だった。

 子供も手を離れた。孫の顔も見た。夢も今叶った。一度でいいから福引で一等を当てたかったのだ。

「行きます」

 おっさんは嬉しそうにチケットを受けとると、券切りでパチンと穴を開けた。

「では、どうぞ」

 おっさんはこちらに背中を向けると中腰になった。

「は?」

「遠慮なさらず、どうぞ」

「え? どうぞって、なにが?」

「負ぶさってください」

「え?」

「私の背中に」

「ん?」

「飛んでいきますから」

 おっさんは羽根をパタパタ動かした。

「いいです、やめます」

「まあ、そう言わず」

「いやです、帰ります」

 そう言った瞬間、目の前が眩しく真っ白になった。


 気づくと病院のベッドの上だった。家族が「よかった」「無事だった」と泣いていた。枕元の脈拍計が単調な音を発している。脈が続いたんだなあ。

 まだまだ生きることになった。天国に興味はあるが、あの天使の背中で旅するのはごめんこうむる。

 長寿社会になったのは、案外、あの天使のおっさんのおかげなのかもしれない。

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