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今日のおはなし  作者: 溝口智子
金の糸 15
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バリウムの夏

バリウムの夏

 ゲップをこらえる時には数種類あると思う。デート中、会議中、バリウムを飲んだ時。僕はこの夏、そのどれもを体験した。


 初めて任されたプロジェクトリーダーを重荷に感じはじめたのはプロジェクトが立ち上がって二週間が過ぎたころ。とにかく胃が痛かった。ゲップも異様に出た。会議でみんなの前で話さなければならない時ほどゲップは喉元へせり上がってきた。それを無理矢理飲みこんでいると、今度はおならが出てたまらなかった。

 デート中も同じ。彼女がじりじりと結婚という二文字を口に出さずに僕に訴えてくる、その視線が僕の胃をキリキリと締め上げた。僕はゲップもおならも何もかも外へ出すことが出来ず、すべてを飲みこみつづけた。


 そうして気付くと、内科でバリウムを飲んでいたというわけだ。

「胃酸過多症だね」

 機械でぐるぐる回転させられゲップを我慢していた僕に、医師はなんでもないことのように診断を下した。僕は盛大なゲップをした。

「胃薬を出すけど、ゲップの一番の対処法は、我慢せずにそうやって出してしまうことだよ。まあ、なんとか付き合ってやってよ」

 僕は二つ目の大きなゲップを出して診察室を後にした。

「プロジェクトチームを解散しましょう」

「僕はまだ結婚は早いと思う」

 盛大なゲップの後、僕は今まで溜めこんでいたものを吐き出した。会社では無謀なプロジェクトの見直しが始まり、彼女は僕にビンタをくれた。それでも、まあ、僕はなんとかやっていってる。ゲップもおならもだいぶ減った。胃痛もしなくなった。胃薬を全部飲み終わったころには、空はすでに秋の予感を感じさせた。

「もう少し、付き合ってあげてもいいわ」

 彼女が僕に言ったころにはゲップもすっかり治まっていた。僕は安心してデートして、やりがいある仕事をして、そしてもうゲップは我慢しない。そういう生き方はすごく楽だ。彼女には少し嫌がられるけれど。

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