ペットボトルの気持ち
ペットボトルの気持ち
彼に捨てられた。
というより、彼に騙されたという方があっているのだけど。私の貯金がなくなったら、ぽい。通帳を見せたこともないのに、残高0になったその日に別れ話を切り出したのは、すごい才能だと思う。
借りた金は返すと、彼は借用書を残していったけど、返してもらう気など毛頭ない。金を貸すときはあげるつもりで貸しなさいというのが、ばあちゃんの遺言だ。
悲しいのはふられたことでも貯金がゼロになったことでもない。
「俺よりいいやつが見つかるさ」
彼の去り際の言葉。私に、彼よりいいやつなんか、すぐに見つかるだろう。
悲しいのは、きっと彼にも、私よりいいやつが見つかるだろうということ。それがたとえ新しい通帳でしかないとしても。
私たちはリサイクルされるペットボトルみたいに、出会っては別れ、違う姿になっていくのだ。私はいつまでも道端に落ちている埃にまみれたペットボトルでいたいのに。
「ふられたんだって? 気分転換に飲みにいこーよ」
ほら、もうペットボトルを拾ってゴミ箱に捨てようという親切な人がやってきた。
私はそんな善意に抗うほどの気概もない。べこべこ簡単に潰れる安物のペットボトルだ。
「いこうかー」
私はリサイクルされて次の持ち主を待つ。まんまんと水をたたえて、新しいラベルを貼られて。




