変化
変化
ある朝目覚めると、足がタコになっていた。
なんだかもにょもにょする感触で目覚めたのだが、気持ちの悪さに足を擦り合わせようとして、戸惑った。
……どの足を擦り合わせよう?
次の瞬間には足なんか二本しかないのだから擦り合わせ放題じゃないか、と思い直したが、なにやら腑に落ちない。
上半身を起こし、布団をはぐってみた。
そこには八本の足があった。
なるほど、これならばどの足を擦り合わせようか悩むはずだ。とは思ったのだが、なぜか足が増えたことには疑問を感じなかった。
もにょもにょする感触は自分の体液だと理解したので気持ちはよくないが我慢するしか仕方がない。
とにもかくにも着替えて部屋をでなければ、会社に遅刻する。
パジャマを脱ぎ、ワイシャツとスラックスを手にしたが、そこで戸惑ってしまった。
どの足をスラックスに入れようか。
入れられるのは二本だけだ。慎重に吟味しなければならない。
しばらく考え込んだが、名案が浮かんだ。
スラックスを4本履けばいいのだ。
私はクロゼットから濃紺のスラックスを二本、茶系のスラックスを一本取りだし、手にしていたものとあわせ、八本の足を入れていった。
それはなかなかうまくいったのだが、問題が再び浮上した。
ベルトを4本も持っていないのだ。
もにょもにょする粘液のせいで、少し動くだけでスラックスがするりと落ちそうになる。ベルトは必須だ。しかし、ない。
悩んでいると、扉の向こうから妹の声がした。
「お兄ちゃん? 早く起きないと遅刻するよ」
「あ、ああ、起きてるよ、大丈夫」
そう答えると妹は扉の前から立ち去ったようだ。良かった。妹といえど、妙齢の婦女子にスラックスを履かない姿を見せるわけにはいかない。
さて、ベルト問題だ、とぐるりと部屋を見渡して、またまた名案が浮かんだ。
ベルトのかわりにネクタイを使えばいい。
クロゼットからネクタイを二本取りだし、手にしていた二本のベルトと一緒にスラックスに取り付けた。スラックスは足のぬめりに負けず、ピタリとフィットした。
これで部屋から出ることができる。
部屋を出て食堂に行くと、妹が私を見て目を丸くした。
「足が割れてる!!」
傷薬だ、救急車だと騒ぐ妹に仔細を話す。
落ち着いた妹は更なる難問を私に問いかけた。
「お兄ちゃん、靴はどうするの?」
どうやら私が家を出るまでにはまだまだ時間がかかりそうだった。




