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散り落ちた真珠
散り落ちた真珠
「そうだな、あと10キロ痩せてお洒落したら付き合ってやってもいいかもな」
彼の言葉から真奈美の戦いは始まった。食べることが大好きな自分を叱咤して、甘いものも炭水化物も取らず、激しい運動をして一ヶ月で10キロ落とした。
今まで入ったことのない店で高い服を買った。
宝飾品店で身に付けたこともない真珠のネックレスを買った。真珠は変われた自分を祝福するようにきらめいていた。
鏡の前に立った真奈美は、それまでの真奈美とはまったくの別人だった。この姿なら、今の私なら、彼は振り向いてくれる。真奈美は踊り出しそうな気持ちを抑え、彼の元へと歩いていった。
「へえ、ダイエット成功したんだ」
そう言った彼の隣には美しい女性が立っていた。洗練されたドレス、上品な笑顔、見るからに優しそうな瞳。とても真奈美が太刀打ちできる相手ではなかった。
「誰か似合いの男を探せよ」
二人が去って行くのを真奈美は茫然と見送った。何かにつかまりたくて胸のネックレスを握りしめた。ぷちりとネックレスの糸が切れて真珠が散り落ちた。




