表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今日のおはなし  作者: 溝口智子
金の糸 15
661/888

一年の一番長い日

一年の一番長い日

 午後七時、ロッカールームでスーツからジョギングウェアに着替えた隆生はバックパックを背負い、社屋から外へ出た。曇り空だが降りそうにはない。ほっと息を吐いた。

 梅雨入りしてからこちら、豪雨が続き走れなかったためフラストレーションにさらされていた。今夜は気持ちよく走れそうだ。もう一度空を見上げて家までの四十分を走り出した。

 走りながら、道行く車の中に、まだヘッドライトをつけていないものがあることに気づいた。そう言えば、ずいぶん明るい。ここ最近の雨空のせいで忘れていたが、日が長くなる時期だったか。隆生は腕に巻いた反射テープを外そうか一瞬、考えたが、四十分走っていれば暗くなるだろうと、巻いたままにしておくことにした。

 隆生が走り始めたのは、ここ二ヶ月のこと、健康診断で中性脂肪が高めだと指摘を受けてからだった。学生時代以来、数十年ぶりにジョギングシューズを履いた。シューズの進化は目を見張るほどで、足腰軽く走ることができた。

 走りだして一ヶ月もたつと、運動不足が解消されてきたようで、周りを見渡す余裕ができた。晴れた日には夕焼けや月を見上げ、街路樹に花がついていくのを観察し、道行く人の服装が夏に向かっていくのを面白く見ていた。

 家まであと十分というところに来ても空はまだ明るい。いったい夏というのはこんな時間まで明るいものだったろうか。昨年の夏、仕事帰りにそのままビヤガーデンに行った時は、すでに真っ暗だった気がしたが。

 ヘッドライトが明るく反射テープを照らす。ようやく夜という感じの暗さになってきたころ、家についた。

 シャワーをすませビールを飲みながらニュースを見ると、今日は夏至だと言う。ああ、それで、あんなに明るかったのかと納得する。季節は空から変わっていくのだな。隆生はこの発見を小さな子供のようにはしゃいだ気持ちで喜んだ。

 これから夏になるが、夜は長くなって、秋には日が落ちるのが早く、冬には朝も暗くなる。そんな季節を走りながら感じていくのがすごく楽しみになってきた。まだまだ走り続けるなら中性脂肪は大丈夫だな、と隆生はもう一本ビールを開け、夏至の夜に乾杯した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ