仰向けで眠りたい
仰向けで眠りたい
ビリッと指先が痺れるような感じがした。(しまった)と思った時にはすでに遅く、金縛りにあっていた。
(まいったな……)
普段は背中を壁にぴったりつけて防御しているのだが、修学旅行の今日、壁際はじゃんけんで負け、とられてしまった。部屋のちょうど真ん中の布団で、左右をむくつけき柔道部員に挟まれ思わず仰向けで眠ってしまったのだ。
さらり、と足先に長い髪の毛が触れた。
(来た……)
髪の毛は徐々に足にからまるように上ってくる。キキキ……と歯軋りの音が聞こえる。
(ノウマクサンマンダ……)
頭の中で真言を唱える。歯軋りの音が激しくなる。
(……ボダナンバイシラマンダヤソワカ)
いやいやをするように髪が左右に激しく揺れている。
(ノウマクサンマンダバサラダンカン)
真言を重ねて唱えるたびに髪の毛が足の上で跳ね、少しずつ少しずつ足先に退いていった。
気配がふっと消え、金縛りがとけた。ふう、とため息をつく。ひさびさの危機を脱した安心感でそのまま眠りに落ちそうになったが、はっと目を開く。いかん、この姿勢のままだとまたヤツがやってきてしまう。
あわてて右に寝返りを打つ。同時に右のヤツも寝返り、目の前にごつい鷲鼻が迫ってきて、あわてて左を向く。そちらには何故か脛毛ぼうぼうの太い足が枕の上にごろんと乗っかっていて、今にも蹴り飛ばされそうだ。
(ああ……仰向けで眠りたい……)
左右どちらを向くか決めかねて、夜は白々と明けていった。




