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今日のおはなし  作者: 溝口智子
金の糸 15
651/888

朝泣き烏

朝泣き烏

 ニコが聞く。

「なんで烏は朝だけ鳴くの?」

 ライが答える。

「烏はいつも鳴いている」

 ニコが聞く。

「なんで烏の声は聞こえないの?」

 ライが答える。

「街の音が大きすぎて、いくら鳴いても聞こえない」


 ニコはライが拾った。ゴミ捨て場に落ちていた。オイルで汚れたシーツにくるまれて。

 ゴミ捨てのルールは簡単だ。人の目に直接触れなければ何を捨ててもかまわない。何を拾ってもかまわない。

 ゴミ捨て場は街の中心にある。誰でもゴミを捨てやすいように。大きな深い穴だ。


 ライはニコに水を与えた。

「どうしてあなたは」

「ライだ」

「ライ。どうしてライは私をぶたないの?」

「ニコはどうしてぶたれた」

「アンドロイドだから」

 ライは黙って立ち上がる。ニコはシーツをまとわりつかせたままライについていく。シーツは色々なものに引っ掛かった。オイルの空き缶、スクラップになった車、動かない古いアンドロイド。ゴミ捨て場はスクラップで溢れかえる。

「私もスクラップになるの?」

「捨てたものをわざわざ潰しに来るやつはいない」

 ニコは笑顔になる。ライは油がきれて動かない顔でニコを見つめる。ニコはいつでもライに笑いかけた。


「烏が飛んでいくわ」

 ニコが空を指す。ライは軋む首を空に向ける。朝の灰色の空を烏は街に向かって飛ぶ。

 ニコが聞く。

「なんで烏は街へ行くの?」

 ライが答える。

「餌を探しに行くんだ」

「なんで烏は餌を探すの?」

「餌がないと死んでしまうんだ」

「ここにはなんだってあるのに、餌はないの?」

 ライは軋む腕を伸ばしてニコの頭を撫でる。

「烏はオイルでは生きていけないんだ」

 ニコはライに笑いかける。


 ニコとライはゴミ捨て場の隅に居着いた。街から降ってくるゴミに潰されないように物陰に隠れた。

 昼となく夜となくゴミは降ってくる。朝だけは街がやっと寝静まる。暗い朝の中ニコとライはゴミ捨て場をさまよう。

 ニコが聞く。

「ライはオイルがないと動けないの?」

 ライが答える。

「ニコが水を飲まないと動けないのと同じだ」

 ニコは嬉しそうに笑う。

「おそろいね」

 ライの顔の継ぎ目がキシリと軋む。


 街からゴミ捨て場にミサイルが捨てられた。臨界をむかえていたゴミ捨て場は一瞬で粉々になった。

 ニコが頭だけになった姿で聞く。

「烏の声が聞こえた?」

 スクラップになったライが残った足を軋ませた。

 烏の声は聞こえない。朝になっても朝はこない。

 ゴミの燃えかすが吹き上がり空は真っ黒だ。烏が飛んでも姿も見えない。

「ねえ、ライ。烏は泣いた?」

 ライの足は軋んで止まった。

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