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今日のおはなし  作者: 溝口智子
金の糸 15
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ワインセラーのミステリー

ワインセラーのミステリー


「あのお話を聞きたい、とおっしゃるのですね?


かしこまりました。


いえ、とくに秘密にしなければいけないお話ではございません。


代々、このお屋敷にお勤めさせていただいておりますが、大抵の旦那様は一番初めに確認されますので。


わたくしも心づもりはいたしておりました。


そもそもの始まりは、今より100年ほど前、このお屋敷の10代目の当主様が悪夢をご覧になったことでございます。


夢に洋装の貴婦人が現れ、こう告げたそうでございます。


「この屋敷に住み続ければ遠からず、そなたに死が訪れるであろう」


その当時、西洋文化が徐々に根付き一般に広がり始めたころでございます。


洋装のご婦人はとても珍しい存在でございました。


それが夢枕にたったと言うことで、当主様は非常に気に病まれ、霊媒師をお呼びになりました。


くだんの霊媒師はこの屋敷の地下、ワインセラーに赴くと、一樽のワインを指差し、


「このワインを飲んではならない。ここに霊気が溜まっている」


と申したのでございます。


当主様は半信半疑で、けれど命のためであれば、とそのワインをけして飲まぬよう堅く封をし、井戸に沈めたのでございます。


その翌年でございました。


関東大震災が起きたのでございます。


この屋敷はしっかりした土台がさいわいし、無事だったのでございますが、近隣は焼け野原でございました。


当主様は被災者を屋敷に迎え入れ、水と食料を分け与えました。


ところが、隣町で暴徒化した町人が大挙して押し寄せ、略奪行為に及んだのです。そして密かに井戸に毒物を投げ込んでいったのでございます。


そのことに屋敷のものは誰も気づきませんでした。


暴徒との戦いに疲れた喉を潤そうとした当主様は、井戸の毒により命を落としました。


後に警察が井戸を調べたところ、井戸の底でワインの樽が割れて水に溶け込んでいたそうでございます。


それ以来、この屋敷のワインセラーには、その当主が夜な夜な現れ、飲酒をきつく戒めるようになったのでございます。


はい。


左様でございます。


それがここ、この地下室でございますよ、旦那様。


ですから、くれぐれも、飲酒はお控え下さいますように」


そう言い残すと、老紳士の姿は地下室の冷気の中に消えていった。

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