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今日のおはなし  作者: 溝口智子
金の糸 15
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にゅうよーく

にゅうよーく

「風呂ってぇのは尻に噛みつくほど熱くなくっちゃいけねえよ」

 主人が落語にかぶれた。寄席に通うところから始まって、落語蘊蓄を語ってみせ、名人のDVDを買い漁り、江戸弁を真似しているらしいみょうな喋り方をつづけている。非常にうっとうしい。

「ねえ、いい加減にやめてくれない、その喋り方」

「なに言ってやがる。俺は産まれた時からチャキチャキの江戸っ子でい。江戸っ子なら江戸訛りが当然だろ」

「江戸っ子は『だろ』なんて言わないでしょ」

「う……ちょ、ちょっと間違っただけでい」

「江戸っ子なら『ちょっと』じゃなくて『ちいっとばっか』じゃないの?」

「う、うるせえ!このおかちめんこ!」

「なによ!あんたなんか宿六のくせに!」

「文句言う時だけ落語調になるんじゃねぇ!」

「江戸弁だってあたしの方が上出来だよ」

「うるせえ!もういい、もうお前とは口をきかねえ!」

 そういうと宿六は足音高く部屋を出ていった。短期なところは本当に江戸っ子みたいだ。しかたない、今日は宿六のために尻に噛みつく風呂にしてやろうじゃないか。



「お、今日の風呂は緑か。このにおいはバスクリンだな。ちらっと湯をかけて、ってあつ!熱い!やけどするかと思った。ふー、ふー。いやいや、江戸っ子たるもの、このくらいの熱さで怯んだとあっちゃあ男がすたる。入ってやらあ!いた!いたあ!尻になんかが噛みついた!……なんだこりゃ、ワニワニパニックじゃねえか。パーティゲームにうってつけのな、手をワニがガブッと噛んでくるやつだろ。なんで風呂に浸かってるんだよ!」


「おい!おかちめんこ!」

「なによ、うるさいね」

「このワニワニパニックはなんだ!」

「よかっただろ、尻にガブッと噛みついて」

「噛みつくほどの風呂って、こんなんじゃないから!」

「じゃあなにさ」

「あっつーい湯っていう隠喩だろ!」

「あらまあ、隠喩だったの」

「当たり前だ」

「あたしはてっきり、いい湯だと思ってたわ」

「……お後がよろしいようで」

 宿六はしょんぼりとワニワニパニックを見つめて呟いた。

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