人食いハンバーガーの恐怖
人食いハンバーガーの恐怖
「ああ、ハンバーガーが食べたいなあ」
ジョイの言葉にカルが駅を指差す。
「すぐそこにマックがあるじゃないか」
「あんなの本物のハンバーガーじゃない!おばあちゃんが作ってくれた懐かしいハンバーガーが食べたいんだよ!」
「また出たよ、おばあちゃんが。そのうち本当に化けて出るんじゃないか?」
「失礼なこと言うなよ!」
その時、一陣の風が吹き、空が急に真っ黒になりジョイとカルは寒気に震えた。
「……ジョイ」
「なんだよ、カル。変な声出して」
「俺じゃないよ」
辺りを見回すと、ゴミステーションの陰に老婦人が佇んでいた。うつむきがちに暗い雰囲気で近づきたくないとカルは一歩下がった。
「おばあちゃん!」
ジョイが叫んで老婦人に駆け寄る。夫人は持っていたハンドバッグから大きなハンカチに包まれたハンバーガーを取り出した。
「ほら、お前の好きなハンバーガーだよ」
ジョイは嬉しそうに受け取ると大きく口を開けて食らいつこうとした。カルはその時、確かに見た。ハンバーガーのバンズの間から長い牙が四本飛びだしたところを。
次の瞬間、ジョイの姿は掻き消えて、夫人の手の上には一回り大きくなったハンバーガーが乗っていた。
「ほら、ジョイのお友達、お前の分もあるよ」
「うわああああ!」
カルは後ろも見ずに走りだした。後ろから夫人の声が追いかけてくる。
「ほうら、美味しい手作りハンバーガーだよ。肉汁がしたたってトマトはつやつやだよ。さあ、お前も持ってごらん。ずっしり重いよ」
「やめろ!そいつがジョイを食ったところ、見たんだからな!」
カルは叫びかえしたが夫人は聞いていない様子でハンバーガーをすすめながら追いかけてくる。カツカツと夫人のヒールの音が近づいてくる。カルは一軒のダイナーに駆けこんだ。
「助けて!人食いハンバーガーが追いかけてくる!」
店主はぽかんと口を開け、それから大爆笑した。
「嘘じゃないんだ!ほんとうなんだ!」
店のドアを開けて老婦人が入ってきた。手にした大きなハンバーガーを見て店主は涙を拭きながらカウンターから出てきた。
「ご婦人、うちは持ち込みはご遠慮いただいてるんですよ」
「お前にこれをあげるよ」
店主はちょっと首をかしげてカルを見た。カルは真っ青になって首を何度も横に振る。それを茶化すように店主は夫人の手からハンバーグを取るとカルに差し出した。
「いやだ!やめて!」
店主はさも楽しそうにカルを店の奥へと追い詰めていく。壁際まで追い詰められ、カルは店主の手を振り払った。ハンバーガーは宙を飛び、店主の顔めがけて飛んでいく。バンズが離れケチャップが店主の顔にかかり、それを舐めとるかのように長い舌がハンバーガーの中から出てきて店主を一飲みにしてしまった。
床に落ちそうになったハンバーガーを老婦人がキャッチする。大事そうに両手で包み、一段と大きくなったハンバーガーをカルに差し出す。
「さあ、お前もハンバーガーを好きだろう」
カルの顔にだんだんとハンバーガーが近づいてくる。大きなパテ、みずみずしいトマト、香りのよいケチャップ、こんがり焼けたバンズ。それがカルが最期に見たものだった。
「お、ここのダイナー変わったんだな」
「本当だ。おばあちゃんの手作りハンバーガーだってさ。うまそうだな、寄っていくか?」
「おお、そうしよう」
二人の若者が店内に入るとカウンターの中には暗い雰囲気の老婦人が立っていた。
「おばあちゃん、ハンバーガー二つ」
「ええ、お前達にもあげるよ、おばあちゃん特製のハンバーガーを」
老婦人はテーブルほどもあるハンバーガーを二人の若者の口に押し付け、若者たちの目には大きな牙と長い舌が見えたのだった。 ~FIN~




