傘が降る町
傘が降る町
最近の麹町はおかしい。雨のかわりに色々なものが降ってくる。ぴちぴちのイワシだとか大量の木の葉だとか。今日は傘が降ってきた。
大きく開いた傘が風にのってふわりふわりと降ってくるのは、ひどく幻想的だったけれどメリー・ポピンズはやって来なかった。
隣の家のおばさんが傘を大量に集めているのでそんなにたくさんどうするのかと聞いてみた。
「傘屋を始めるのよ」
そうは言っても町の人間は皆、傘をイヤというほど拾っている。誰も買わないだろうにと思っていた。
突然の雨、久しぶりにまともな雨が降った日だ。変なものが降ってくることに慣れてしまって雨の準備を怠った。かなりの勢いで降っている。駅前にコンビニはないから傘も買えない。
濡れる覚悟とともに駅を出ると隣の家のおばさんが緑色で目玉がぴょこんと飛び出した可愛らしいカエル型の傘をさして傘立てを抱えて歩いていた。あんまり重そうに傘立てを運んでいるので、持ちましょう、と声をかけた。おばさんは駅前で傘を完売して帰るところだと言う。
「まあまあ、入っていきなさいよ」
カエル型の傘にいれてもらって、おばさんの商才に舌を巻いた。
「世の中ね顔かお金かなのよ。有名な回文だけどね。私なんかは、ほら、お金一辺倒よ」
と笑って言った。次の日、空は晴れ、しかし大量の飴が降ってきた。隣の家のおばさんはカエル型の傘を逆さに持って飴を大量にためていた。
「これは傘のおまけにつけるのよ」
なるほど、商売とはかくあるべきかと唸った一日だった。




