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今日のおはなし  作者: 溝口智子
金の糸 15
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えびぞり

えびぞり

「海老さま、素敵だったわ〜」

 歌舞伎見物から帰った姉の目がハートマークになっていた。

「美しかった!美しかった!」

 こちらの都合などお構いなしに話しかけてくる。私はうんざりと読んでいた雑誌に目を落とした。そんなことお構いなしに姉は喋り続ける。

「どんな演目でもうるわしいわ〜」

 姉は面食いである。何年か前には生田斗真、その前は向井理、その前は……思い出せない。まあいい、どのみちイケメンの名前しか出てこないのだ。

 海老さま海老さまと言い出したのは、ここ二年ほど。YouTubeでの密着映像を見てからだ。舞台の化粧した姿ではなく素顔にやられたのだ、当たり前だが。

「舞台に上がるのが海老さま一人だったらもっといいのに。海老さまだけを見つめていたいー!」

 それは歌舞伎ではなく、市川海老蔵オンステージだ。雰囲気が歌謡ショーみたいになってきた。

「それよりも海老さまがたくさんいたらもっといいのに!」

 役者がどんどん舞台に上がってくる。それがみな市川海老蔵。白波五人男もみんな海老蔵。弁天小僧菊之輔も赤星十三郎も海老蔵。それが五人並んで派手な衣装で番傘さして次々に口上を言っていく。なんだか

「えびぞりみたいね」

「えびぞり?」

「犬ぞりみたいにみんなで同じ顔して並んでさ。海老がひくからえびぞり」

「海老さまはそりなんか引かないから!ていうかどんなものも引かないから!」

 姉はぷりぷり怒って足音高く自分の部屋にひっこんだ。これでやっと静かになった。私は雑誌に集中した。


 翌朝、姉は憑き物が落ちたように海老蔵の話をしなくなった。歌舞伎にも通わなくなり、今回のイケメン熱は呆気なく幕引きになった。次のイケメンが見つかるまで、しばらく静かに過ごせそうだ。


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