お花畑
お花畑
「そんなこと言ったって、ママは植物を触れないじゃない」
「でも一度くらい母の日にカーネーションをもらってみたいんだもん」
ママは茶色の手を持っている。
植物を生かす癒しの力を持つ人を『緑の手を持つ』と表現するんだけど、ママはその反対。触っただけで植物を枯らす力を持つ。それだけ聞くと超能力かっこいいやん、と思えなくもないけれど、日常生活はほんとに大変だ。
料理をしようと思ったら野菜がダメになるし、門松も飾れないし、畳は茶色になってしまう。そんなママだから、今まで花束を抱いた経験がない。かわいそうだけど、それは生まれつきなのだから仕方がない。プリザーブドフラワーやドライフラワーも試してみたが、どちらもはらりはらりと散り落ちた。
「ぶー」
ママは子供みたいに口を尖らせてる。せっかくの母の日がくるんだし、なんとかしてあげたいところだけど。
職場の同期の花ちゃんに相談してみた。
「編み物とかフェルトで作れば?手作りなら嬉しいんじゃない」
さすがは花ちゃん、たよりになる。早速フェルトをたくさん買ってママが寝てしまってからカーネーションを作り始める。布をしゅわしゅわとひだになるようによせてボンドでとめて緑のフェルトのガクをつける。簡単だ。しかし面白い。手が止まらない。どんどんカーネーションが増えていく。気づいたら机の上がお花畑になっていた。
「あらあらあらまあまあまあ!」
母の日、ママを部屋にご招待したら、山盛りのカーネーションを見て子供みたいに目を輝かせた。
「カーネーションだわ!」
ママはカーネーションを両手で掬い上げると空中に撒き散らし頭から浴びた。
「すごい、すごい、枯れないわ!」
大喜びで浴びつづけて満足したのか床に落ちたカーネーションをにこにこと拾い集めはじめた。するとカーネーションがだんだんと色褪せていく。
「あれ!?なんで!フェルトって植物!?」
「フェルトは羊毛だけど……」
フェルトのパッケージを見ると「安心安全の植物染料使用」と書いてある。
「あらあらあらまあまあまあ」
色褪せたフェルトは白くふわりと羊のせなかにも似て。
「真っ白なお花畑ね!」
ママはカーネーションをかきいだいた。




