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今日のおはなし  作者: 溝口智子
金の糸 15
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おにぎりほろほろ

おにぎりほろほろ

 どうしてこんなに何もかもうまくいかないんだ。俺はどこで間違った?

 今日も仕事は失敗ばかり。叱られるならまだいいが、やんわり注意され再発防止策を考えさせられる。再発防止するなら俺の頭をすげかえるだけですむ。簡単なことだ。けれど、会社は辞めてくれとは言わない。真綿で首を絞めるように自分から辞めたくなるように話をもっていく。その話も俺にはわからない単語で埋め尽くされていて、おかげでまだ辞めずにすんでいる。

 コミュ障という言葉を知ったときは安堵したもんだ。この苦しみを抱えているのは俺だけじゃないと知って。けれど、それを知ったからといって人生が明るくなるわけもなく、日々、冷や汗をかきながら社会人のふりをして過ごしている。

 金があれば、一生受けとるだけで暮らしていけるのになあ。公園で昼飯のコンビニおにぎりを手にぼんやり思う。働くってことは誰かに何かを与えることだ。俺には何もない。知恵もない、話術もない、それどころか覇気もない。与えるものなど何もない。受けとるだけで生きていけたらなあ。

 今日も失敗ばかりで食欲はない。けれど無理矢理おにぎりに噛みついたが、口のはしからほろりと飯粒がこぼれ落ちた。ああ、俺は飯すらまともに食えやしない。落ちた飯粒を見てさらに暗い気持ちになる。

 ぐるっぽー、ぐるっぽーと鳩が近づいてきて落ちた飯粒をつついた。そうだな、俺には鳩にエサを与えるぐらいが関の山だよな。自嘲ぎみに笑うとおにぎりを半分に割り、鳩に投げ与えた。鳩は何を考えているのかわからない目でぐるっぽーと鳴く。そうだな、お前にやるおにぎりのために、もう少し頑張ってみるかな。

 残りのおにぎりを飲み下して立ち上がり、会社へ戻る。いつも引きずるような足取りが、今日は少しだけ軽い気がした。

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