サボテン女
サボテン女
年をとると涙もろくなるなんて、誰が言ったの?四十の誕生日、あたしはひとりヒューマンドラマと言われるであろう映画を見ながら、ポテチをむさぼる。
涙なんて、もう何年流してないだろう。記憶の奥底を探ってみても、涙のかけらも見つからない。最近の記憶にいたっては欠伸したときさえ涙は出ない。ドライアイなのだ。涙もろくなるどころか、人工涙液の助けを借りるていたらくだ。
ドラマはそこそこ面白い。いわゆるお涙ちょうだい的あざとさがなく、人生の大事なことを淡々と描いている。感動的だ。でも涙は出ない。画面に集中していたら目が乾いた。目薬をさして、まばたき。世界がうるりと歪み、目のはしのほうで水分が光を受けて虹色に見える。
いいな、涙を流せる人は。悲しいときも感動したときも虹と共に生きている。いつも虹がそばにある。
まばたき。虹ははかなく消えた。ポテチもはかなく消えた。映画もクライマックスだ。あたしには何も残らない。なーんにも。
そんな人生もいいじゃないか。涙も流さずひとりで年をとる。からっからの砂漠みたいな人生。あたしはサボテンになろう。とげを生やして近寄るやつをちくちく刺してやろう。そんな人生もいいじゃないか。
たまに目薬の雨を浴びて、花を咲かせる日もあるだろう。うん。
ハッピーバースデイ、あたし。
尖っていこう!
 




