トマトの王様
トマトの王様
村の畑でトマトたちが王様を決めようと話しあいを始めました。
「王様なんだから体が大きくて立派で真っ赤じゃないといけないよ」
と、大きなトマトが言いました。
「王様なんだから背が高くてみんなよりも遠くまで見渡せないといけないよ」
と、細長いトマトが言いました。
「王様なんだから水分がいっぱいで体がつやつやしてないといけないよ」
と、ぴかぴかしたトマトが言いました。
みんながみんな好きなことを言って、王様はぜんぜん決まりません。話しあいは夜になってもおわらず、トマトたちはみんなクタクタにくたびれてしまいました。
「そうだ、村の畑の王様なんだから、村の人間に決めてもらおう」
トマトたちはそうだそうだと言い合って、夜道を歩いてきた村人に声をかけました。
「おじさん、おじさん」
一番道のそばにいた、まだ青い子どものトマトが農夫に話しかけます。
「うん?どこからか声がしたぞ」
農夫はきょろきょろとあたりを見回しますが、人影は見えません。
「空耳かな」
農夫はひとり納得すると、すたすたと歩いていってしまいました。
「ダメだよ、ダメだ。王様は声が大きくなくちゃ」
そう言ったのは大きな穴が開いたトマトでした。たしかに、声が大きければ農夫も話を聞いてくれたかもしれません。みんなは本当に大きな声のトマトが王様になる方がいいのか、もう一度人間に話しかけて試してみることにしました。
夜も更けて月が沈むころ、村人がふらふらと歩いて来ました。ずいぶんと酔っ払っているようでした。
「おじさん、おじさん」
穴が開いたトマトが声をかけました。村人は足を止めると畑の中に入ってきました。そうして穴のあいたトマトが話しかけていることに気付きました。
「おじさん、トマトの王様は声が大きなトマトがいいよね」
「いいや、大きな体のトマトがいいはずだ」
「そんなことない、背が高いのがいいんだ」
「つやつやしているのが立派だろう」
トマトたちは口々に自分こそが王様にふさわしいと言い合いました。村人はひっく、ひっくとしゃっくりをしながらそれを聞いていましたが、突然、トマトたちを次々にもぎはじめました。そして次から次と食べ始めました。
食べ終えた村人はさっぱりとした表情で言いました。
「ああ、酔い覚ましにトマトがうまかった。どれもいいトマトだったなあ」
畑から出ようとした村人は道のそばに小さな子どものトマトを見つけて顔を近づけました。子トマトは食べられてしまう、と身を硬くしました。
「こいつはまだ硬くて青いな、食べられん」
そう言うと村人はよろよろと歩いて村へ帰っていきました。
最後に畑に残った子トマトは、王様になんかならなくていいや、と静かに静かに息をひそめました。
 




