指で捏ねて丸めて食べる
指で捏ねて丸めて食べる
裏庭をとうもろこし畑にしようと思ったのは、給料日の一日前。簡単に育つらしいし、粉に挽けば日持ちもする。さっそく種を買ってきた。
春蒔きだというので、さっそく三十粒ほど植えた。深く穴を掘って生ごみコンポストで作った堆肥を使った。種を植え手を叩いて土を払い落としながら、にんまりと満足の笑みを浮かべた。
水やりは頻繁でなくてよいということだから、たまに思い出した時にやる。じょうろで水をまきながら、夏はまだかと心ときめかせた。
念願の収穫の日。初夏の爽やかに晴れた日を選んだ。裏庭はわさわさと繁った葉で地面が見えない。とうもろこしの背丈は今や屋根まで達するかに見えた。
心踊らせ、収穫する。もぎたてが旨いのだと聞き、一度に食べきれるだけ、三本だけをもいだ。 すぐに茹でてかぶりつく。じゅわあ、と旨味と甘味が湧き出て口の中いっぱい夏になった。あっという間に三本食べ終えて、あまりの旨さにまだまだ足りず、庭に出る。もう三本もいで、とうもろこしの先を見上げた。
どこまでも澄んだ空に飛び立つロケットのように見えた。
いくら食べても食べ飽きることがなく、茹でとうもろこしで全部食べるつもりだったが、とうもろこしの実が傷みだした。泣く泣く全て刈り取って実を削りとり天日に干した。鳥におすそわけをやるつもりはなく、防鳥ネットを準備した。
感想が終わると粉に挽いて小分けして冷凍保存する。一日100グラムを目安に詰めてみた。冷凍室はとうもろこしの粉でぱんぱんだ。
さて、これをどう料理しよう。ネットで色々検索してみる。タコスやコーンブレッドなど、なかなか手間がかかる。なにかもっと簡単なものは、と探してジンバブエの料理、サザを見つけた。
とうもろこし粉にお湯を加えて火にかけ煮詰めていく。それだけ。
すぐに作ってみた。15分で出来上がった。指で捏ねて丸めて食べる。
青空にロケットが飛んでいったかのような衝撃だった。旨かった。夢中で、あっという間に食べ終えて、冷凍室から粉を引っ張り出しておかわりした。
二、三日それだけを食べて過ごしたが、さすがに栄養不足が心配になった。サザにあわせてスープカレーを作った。旨かった。
これからは得意料理は?と聞かれたら、サザと答えよう。なにせ原材料から作っているのだ。誰にも負けないサザマスターだ。
しかし、冷凍室を見つめて思う。誰かに話して食べてみたいと言われたら、貴重な粉が減ってしまう。やはり、得意をひけらかすのはよくない。
一人納得してサザをもう一皿おかわりした。




