表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今日のおはなし  作者: 溝口智子
金の糸 15
573/888

指で捏ねて丸めて食べる

指で捏ねて丸めて食べる

 裏庭をとうもろこし畑にしようと思ったのは、給料日の一日前。簡単に育つらしいし、粉に挽けば日持ちもする。さっそく種を買ってきた。

 春蒔きだというので、さっそく三十粒ほど植えた。深く穴を掘って生ごみコンポストで作った堆肥を使った。種を植え手を叩いて土を払い落としながら、にんまりと満足の笑みを浮かべた。

 水やりは頻繁でなくてよいということだから、たまに思い出した時にやる。じょうろで水をまきながら、夏はまだかと心ときめかせた。

 念願の収穫の日。初夏の爽やかに晴れた日を選んだ。裏庭はわさわさと繁った葉で地面が見えない。とうもろこしの背丈は今や屋根まで達するかに見えた。

 心踊らせ、収穫する。もぎたてが旨いのだと聞き、一度に食べきれるだけ、三本だけをもいだ。 すぐに茹でてかぶりつく。じゅわあ、と旨味と甘味が湧き出て口の中いっぱい夏になった。あっという間に三本食べ終えて、あまりの旨さにまだまだ足りず、庭に出る。もう三本もいで、とうもろこしの先を見上げた。

 どこまでも澄んだ空に飛び立つロケットのように見えた。


 いくら食べても食べ飽きることがなく、茹でとうもろこしで全部食べるつもりだったが、とうもろこしの実が傷みだした。泣く泣く全て刈り取って実を削りとり天日に干した。鳥におすそわけをやるつもりはなく、防鳥ネットを準備した。

 感想が終わると粉に挽いて小分けして冷凍保存する。一日100グラムを目安に詰めてみた。冷凍室はとうもろこしの粉でぱんぱんだ。

 さて、これをどう料理しよう。ネットで色々検索してみる。タコスやコーンブレッドなど、なかなか手間がかかる。なにかもっと簡単なものは、と探してジンバブエの料理、サザを見つけた。

 とうもろこし粉にお湯を加えて火にかけ煮詰めていく。それだけ。

 すぐに作ってみた。15分で出来上がった。指で捏ねて丸めて食べる。

 青空にロケットが飛んでいったかのような衝撃だった。旨かった。夢中で、あっという間に食べ終えて、冷凍室から粉を引っ張り出しておかわりした。

 二、三日それだけを食べて過ごしたが、さすがに栄養不足が心配になった。サザにあわせてスープカレーを作った。旨かった。

 これからは得意料理は?と聞かれたら、サザと答えよう。なにせ原材料から作っているのだ。誰にも負けないサザマスターだ。

 しかし、冷凍室を見つめて思う。誰かに話して食べてみたいと言われたら、貴重な粉が減ってしまう。やはり、得意をひけらかすのはよくない。

 一人納得してサザをもう一皿おかわりした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ