夢のような夢
夢のような夢
目覚めてすぐ「ああ、すごくおもしろい夢だった!学校に行って皆に話さなくちゃ!」
と思った依子は、夢の内容を忘れないように、頭の中でグルグル反芻しながら身支度をした。
夢を思い出すために、目が覚めてからも、いつもより長々とベッドでゴロゴロしていたうえに、上の空で着替えや洗顔をしていたため、ふと気付けば、遅刻ギリギリの時間になっていた。
母が用意してくれた朝食の、トーストだけ咥えて家を飛び出す。
角を曲がったとたん、誰かとぶつかった。
「あいたあ…」
思いっきりひっくり返った依子に
「大丈夫?」
と言いながら手を伸ばし、立たせてくれた相手は、目を見張るほどハンサムな青年だった。
依子は思わずぼーっと見惚れ、口からぽろりとトーストが落ちた。
それを見たハンサム青年は、くすくすと笑い出した。
「トーストくわえた美少女と曲がり角でぶつかる。なんてマンガみたいなこと、本当にあるんだね」
「そうですか…美少女とぶつかったんですか…」
ぼーっとして、青年の言葉を、ただ反復するだけの依子を、青年はまた笑う。
「そうだよ。今、君と、ぶつかったじゃないか」
「え!!美少女って、あたしのこと!?」
びっくりした拍子に目が覚めた。
「…へんな夢」
夢の中で、なぜか少女になっていたオレは、しばらく、ぼーっとしていた。
まだ夢の感触が残っていて、自分が女のような気がする。
念のため、胸を押さえてみた。ぺたんこだ。当たり前だが。
ぼーっとしている間に、思ったより時間が過ぎていた。遅刻ギリギリだ。
急いで身支度し、家を飛び出す。
いつも曲がる角に来たころには、夢のくわしい内容は忘れかけていた。
ただ、うっすらと、ここで誰かとぶつかったような気分だけが残っていた。
思わず、立ち止まる。
すると、猛スピードで、トーストをくわえた美少女が角から飛び出してきた。
立ち止まらなかったら、ぶつかっていただろう。
美少女はオレには目もくれず、駆け去って行く。
その後ろ姿を見つめ、なぜだかさびしい気分になったが…。
時間がないことを思い出し、あわてて駆け出す。
駅についた頃には夢のことなどすっかり忘れていた。




