幼稚園からやり直せ!!
幼稚園からやり直せ!!
「きらりちゃん、先月貸した千円返してよ」
みもりの言葉に、きらりは困り顔で笑って手をあわせた。
「ごめぇん、今度のバイト代から払うから、もう少し待ってぇ」
「もう少し、もう少しって二度も聞いた。いい加減に返して」
「だってぇ、貧乏なんだもーん」
きらりに金を貸すと返ってこない。そう聞いたのは先週のこと。すでに千円貸していた。けれどもみもりは金にはうるさい。絶対に取り立ててみせると拳を握った。
それからは毎日、朝昼晩、きらりを捕まえては「千円返せ」と詰めよった。そのたび、なんだかんだときらりは逃げていき、みもりの情熱はさらに増した。
「ちょっと!こんなところまでついてこないでよ!」
学校が休みの日をねらって、みもりはきらりの家の前で張り込んだ。自宅から出てきたきらりはレーシーでガーリーな白いコートを着ていた。
「千円」
「もう少し待ってってば!」
きらりはみもりを無視して早足で歩き出す。
「いいわねえ、お買い物?私が貸した千円があなたのお洋服になるのねえ」
「ちがうわよ!」
「どこに行くの?」
「教える義理はないわ!」
「教えてくれないとついていくわよ」
きらりはくるりと振り返ると腕をくみ普段は決して出さない低い声でみもりに言い渡した。
「ついてきたらただじゃおかない」
きらりが歩き出し、みもりは当然のようについていく。
バス停まで歩いて、きらりはみもりを突き飛ばした。みもりはたたらを踏んで、しかし、にやりと笑った。
「なによ、なに笑ってるのよ」
「海斗くん、今の見た?」
みもりの後ろを歩いてきていた男子が眼鏡と帽子をはずす。
「海斗!」
「きらり、俺、もう付き合ってられないよ。君、嘘ばかりだし、暴力まで」
「ちがうの、海斗。こいつがストーキングしてきて……」
きらりの言葉を最後まで聞かず、海斗は去っていった。
「千円」
「あんたねえ、人に迷惑をかけるなって、幼稚園で教わらなかったわけ!?」
「あなたは教わらなかったみたいね。借りたものは返すものだって」
きらりはギリギリと歯軋りをしていたが、財布から千円札を取り出すとみもりの胸に叩きつけた。
「これでいいんでしょ!」
「利子」
「は?」
「利子を払ってもらおうか」
「そんな約束してないじゃない」
「大人の常識でしょ。幼稚園児じゃないんだから」
きらりは両手をぎゅっと握りしめてわめく。
「まだ十代じゃない!まだ子供じゃない!」
「そうね、あなたはそうみたいね」
「あんたは違うっていうの?」
「少なくともあなたみたいに道理がわからないような子供じゃないわね。まあ、今日のところは貸しにしておくわ」
みもりは千円札をポケットに突っ込むと鼻息できらりを黙らせて去っていく。
「あんたなんか、あんたなんか……」
きらりはみもりの背中に叫ぶ。
「優しさを学べ!幼稚園からやり直せ!!」
その声は空しく冬の風に吹かれて消えた。




