インドの蘊蓄
インドの蘊蓄
清崎とインドカレーを食べに行った。広いガラス窓の向こうに大きな窯がありインド人らしき男性が窯の中にナンの生地を張り付けている。本格式だ。僕たちは店に入ると二人掛けの席に座り、日替りカレーセットを注文した。
「ナンかライス、どちらになさいますか?」
サリーを来た可愛らしい女性(おそらく日本人だ)に聞かれ、僕はナンを頼んだ。窯焼きのナンなら美味しかろうと思ったのだ。
「僕はライスで」
清崎の言葉に僕はちょっと驚いた。
「君、レストランではいつもパンなのに、今日は珍しくライスなんだね。ナンは嫌いなの?」
「いや、嫌いということはない。インド風に食べるならライスだろうと思ってね」
僕はまたちょっと驚いた。
「インドのカレーはライスが一般的なの?」
「そうだね。インドには米の名産地が多い。インドの人は米の味にうるさい。本格式に手で食べるのは米の方だよ」
「へえ。意外だな。カレーにはナン、が当たり前だと思っていたよ」
清崎は人差し指を立てて左右に振ってみせる。
「世界の常識は深いんだろうねえ」
その時、女性店員がカレーセットを運んできた。僕がナンをちぎり、それでカレーをすくおうと四苦八苦している前で清崎はスプーンで優雅にインドのカレーを食べている。
「せっかくの本格式カレーなのに、手で食べないの?」
「うん。インド式に食べるなら、やはりナンだろう」
僕は清崎の意見の齟齬に首を捻った。
「ちなみに、さっき言ったのは僕の推量だよ」
「え、知ってる情報じゃないの?」
「僕はインドに行ったことはないからね」
ゆうゆうとスプーンを操る清崎の前で手掴みで食べるのは何やら恥ずかしく、僕はおしぼりで手を拭いてスプーンをとった。




