母の苦悩
母の苦悩
「もう、またこんなに散らかして!」
砂美は腰にてをあてて鼻息あらく息子の部屋を見渡す。そこらじゅうにペットボトルが転がり、服は脱ぎ散らかされ、雑誌の山ができている。
「食べ物を持ち込まないだけましだけど……」
嘆きながらも手はテキパキと動き、洗濯物を広い集めていく。砂美の大きなおしりが雑誌の山にあたり雪崩がおこる。
「あー、もう」
雑誌を掻き分けていると、ビキニからはみ出しそうな巨乳の女性の写真が表紙の雑誌が山の下から出てきた。砂美はため息をつく。その雑誌だけベッドの下に放り込み掃除を続けた。
服の山を掘っていくと長男の小学校の卒業アルバムが出てきた。
「まあ、なつかしい」
砂美手はぴたりと止まり、アルバムをめくりはじめた。最後のページまで見終わり、満足してアルバムを閉じる。
「いけない、脱線しちゃった」
掃除を再開してペットボトルを拾っていくと中味が入ったままのジンジャーコーラがあった。
「なに、これ。へんなの、どんな味かしら……」
砂美はペットボトルの蓋を開け臭いをかぐ。何度か鼻を近づけたり離したりしてから、そっと口をつけた。
「……まずい」
他にも長男の部屋からは色々わけのわからないものが出てきて、砂美はそのたび、興味津々にいじり回した。
「母さん、脱線しすぎ」
声に振り返ると長男がドアの隙間から部屋をのぞき込んでいた。
「やだ、あんた、いつから見てたの」
「最初から」
「見てたなら自分で片付けなさいよ」
「明日しようと思ってたんだよ」
「そもそも散らかさないようにしなさいよ」
「むりだよ」
「なんでよ」
「母さんの子だからね」
長男が指差した部屋の中は、母が掘り返しては中断し、掘り返しては中断したモノが散乱して、はじめよりも散らかっていた。
「あんたの部屋、脱線させるものが多すぎなのよ」
「そりゃそうさ。だから俺も掃除にならない」
息子のいい様に母は返す言葉を見つけられず、黙ってジンジャーコーラを飲み干した。
 




