ピノキオ
ピノキオ
キキは誕生日にピノキオの操り人形を買ってもらいました。一目見て大好きになり、どこへ行くにも一緒につれていきました。
四六時中ピノキオの操り糸をいじってピノキオと話をします。キキはすぐに操りの技が上達して、ピノキオはまるで生きているかのように動くようになりました。
ある夜、キキの母親がキキの部屋の前を通りかかると、部屋の中から奇妙な声が聞こえてきました。
「なりたいな……なりたいな…」
母親は部屋をのぞいてみましたが、キキはピノキオを抱いてすやすやと眠っていました。母親は首をひねりながら、ドアをしめました。
キキの操りの腕はどんどん上がり、ピノキオは今はもう泣いたり笑ったりするほどになりました。もちろん人形の口が動いたり、目から涙が出るわけではありません。ですが、まるで涙が流れているように、大きく口を開いたように見えるのでした。
キキは友達とも遊ばず、ピノキオとばかり話します。母親が心配してピノキオを置くように言いますが、キキはそのたび走って逃げます。何度も繰り返すうちに、キキは母親のそばに近づかなくなりました。
それどころかご飯も食べず、自分の部屋から出てこなくなりました。母親がキキの部屋のドアを叩いても部屋の中からはなんの音も聞こえません。夜になりキキの父親が帰って来ました。キキが出てこないことを聞くと、ドアに体当たりして鍵を壊して中に入りました。
部屋の中にキキはいません。窓には鍵がかかっています。部屋中探しましたが、どこにもいません。ピノキオがベッドの上に転がっているだけです。
両親は家中を、村中を探しまわりましたが、どこにもキキはいませんでした。
母親が我を失って叫びます。父親は母親を家に連れ帰りベッドに寝かせました。
村の人が総出でキキを探します。山や川や森を探します。しかし朝になってもキキは見つかりませんでした。
父親が疲れはてて家に戻ると母親がピノキオを抱いて優しくあやしていました。
「何をしているんだ?」
父親が聞くと、母親はにこりと嬉しそうに笑ってピノキオを父親に差し出して見せました。
「キキがいたのよ、見つかったの」
「なにを馬鹿なことを」
「さあ、キキ。ご飯にしましょうねえ」
母親がピノキオを椅子に座らせ、ご飯を食べさせる真似をしました。父親は母親からスプーンを取り上げました。
「しっかりしろ。それは人形だ」
けれど母親はピノキオを離しません。
「いやよ! 私もなるの」
話が通じない母親から、父親がむりやりピノキオをもぎとろうとしました。母親は抵抗して、ピノキオを抱いたまま家から飛び出していきました。
父親はあわてて追いかけますが、家を一歩出ると母親の姿は消えていました。ふと見ると足元にピノキオが落ちています。ピノキオは両手に何かを握っています。
父親がピノキオを拾い上げてみると、それは小さな操り人形でした。右手に男の子の人形、左手に女の人の人形。父親はピノキオの操りの糸を動かしました。ピノキオが右手を上げると、小さな男の子の人形が跳ね、ピノキオが左手を上げると、女の人の人形が跳ねます。小さな人形たちはピノキオに踊らされて楽しそうに跳ね続けました。それはそれは楽しそうに。
「俺もなりたいなあ」
父親はぽつりと呟き、家に入ると、扉に鍵をかけました。もう二度と開かないように、固く固くかけました。
 




