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今日のおはなし  作者: 溝口智子
金の糸 15
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サッポロ一番 から揚げ風

サッポロ一番 から揚げ風

「なんだこりゃ」


 ドラッグストアの通路で、思わず声が出た。段ボールに山と積まれた五袋入りインスタントラーメンは、紺と赤のストライプ模様のパッケージで、一見するとアメリカンな感じなのだが書いてある文字は「から揚げ風」。書いてあることは分かる。しかし意味が分からない。なんなんだ、からあげ「風」って?

 袋の写真では醤油ラーメンの上にからあげが乗っている。ねぎ、コーン、ゆで卵も乗って栄養バランスを取ろうとしている努力がうかがえる。それはわかるが、なんなのだ、からあげ「風」。

 しばらく段ボールの前で腕組みしていたが、その日はそれを見なかったことにして家に帰った。


 それから数日たって、またドラッグストアに足を運んだ。トイレットペーパーだとかヘアクリームだとか紙パック入りの焼酎だとかをカゴに入れつつ進んでいくと、また「サッポロ一番 から揚げ風」に出あった。先日よりぐっと数が減って残り七袋だけになっていた。

 売れている。

 私はしばらくアメリカンテイストなパッケージをにらみ、熟考してから手を伸ばした。


 インスタントラーメンが好きである。休日の楽しみは素ラーメンの昼食である。ラーメンの味をそのまま味わうために具は乗せない。水も時間もきっちり計る。なんせたまの楽しみだ。失敗は許されない。そんな私の神とも言えるラーメンは、明星の「中華三昧」。そんじょそこらのインスタントラーメンが逆立ちしても勝てっこない高級なお味。有名店が我が家にやってきたかのような喉越し。今日もそれにしようかと思ったのだが。

 天気がよかった。

 青空にすーっと飛行機雲が伸びていた。

 私は「サッポロ一番 から揚げ風」に手を伸ばした。


「スープはチキンのうまみにガーリックとジンジャーをきかせた、香ばしい風味のから揚げ風しょうゆ味です。麺はチキンエキスを練り込み、ちぢれをつけることでスープとの一体感をもたせた麺に仕上げました。食卓の人気メニュー<から揚げ>をラーメンにしたユニークな袋麺を、買い置きに便利な5個パックで。」


 以上、サッポロ一番の製造元、サンヨー食品のホームページより失敬した。

 どんなに説明されたとしても、やはり理解できない「からあげ風」。作ってみた。


1、あらかじめ、特製スープ、調味油を器に入れておきます。


2、鍋にお湯500ml(カップ2杯半)を沸騰させ、めんを入れてほぐしながら3分間煮てください。


3、鍋のお湯を器に入れ、スープ、調味油をよく溶かします。


4、めんを移し、軽く混ぜて出来上がりです。お好みにより、から揚げ、卵、野菜などを加えますと一層おいしく召し上がれます。



 うん。

 どこまでもから揚げを推してくる。しかし私は素ラーメン派だ。から揚げなど入れん。素のままずずずとすすりこむ。

 …

 ……

 ………

 …………まずい。


(「これは個人の感想で感じ方には個人差があります」)


 においは確かにから揚げだ。香ばしい醤油味のからあげの匂いだ。スープも確かにから揚げの味だ。から揚げを煮溶かしているのではないかと思えるほどにから揚げだ。


(「これは個人の感想で感じ方には個人差があります」)



 しかして、麺が入ると、味がグッと薄まる。薄味の歯ごたえがふにゃふにゃした、から揚げ風。まずい。


(「これは個人の感想で感じ方には個人差があります」)


 どうしてから揚げ風にした? なんでから揚げ「風」にした? そんなにから揚げが好きなら具にから揚げをつければよかったじゃないか。なぜにラーメンでから揚げを体現しようなどと考えたのか?

 サッポロだからか?サッポロと言えばザンギ(から揚げ)だろう、とそういうことか?

 私は休日の昼下がり、ちょっとしょっぱいインスタントラーメンをすすりながらサッポロに思いをはせた。サッポロの風は冷たかった。


 けど、サンヨー食品の本社工場は群馬県なんだけどね。

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