ゴローの一日
ゴローの一日
ゴローは犬小屋の中で骨をかじりながら考えた。わしはいつもドッグフードと骨ばかり。たまには肉を食べたいもんじゃ。その時、飼い主の美恵子の足音がした。
「ゴロー、ご飯だよ」
犬小屋から出て皿をのぞくと、案の定、入っているのはいつものドッグフードだ。ゴローはため息をついてその場に座り込んだ。
「あれ? 今日も食欲ないの? なんでかなあ、おじいさんになったからかなあ」
ドッグフードじゃなく肉が食べたいんじゃ、肉。ゴローの呟きは美恵子には「くーん、くーん」と悲しげに鳴いているようにしか聞こえない。
「うーん、困ったなあ、どうやったら食べてくれるかなあ」
肉なら食うぞ、肉なら。
「そうだ、水でふやかして柔らかくしたら食べやすいかも」
そんなことしたら、ただでさえ不味いドッグフードがさらに不味くなる。勘弁してくれ。
「おじいさんだし、あっさりしたものがいいのかなあ、野菜スープとか」
野菜スープ? そんなもんで腹がふくれるか。肉をくれ、肉を。
「そうだ、ドッグフードを変えてみようかな?」
おお、そうしてくれ。それで肉いっぱいのやつにしてくれ。
「よし! この『肉たっぷりワンちゃんの大好物』は、もう捨てちゃって、『野菜たっぷりワンちゃんの健康食』にしようね、ゴロー」
なにい!? 肉たっぷりだと!? そ、そういえば、このかぐわしい臭いは確かに肉! まずそうだけれど確かに肉! わしは肉が大好きだあ!
ゴローは皿に顔を突っ込んでガフガフとドッグフードを食べ出した。
「わあ、良かった。元気が出たみたい。これならドッグフードを変えなくていいわね」
そうとも、わしはこのドッグフードが大好きじゃぞ。
「やっぱり一番安いのでも食べられるもんね。」 ……一番安いの……。ゴローの食欲は減退したが、肉を食べたい欲求にはあらがえず、ガフガフと食べ続けなければならなかった。




