ギャース
ギャース
「オニギラズ買って! 買ってよ、ママ!」
小学校から走って帰った要がキッチンに駆け込みママにせがんだ。
「要、帰ったら、うがいと手荒いでしょ」
「そんなこといいから、ママ……」
ママは目があったら発火しそうな視線を要に向けた。要はあわてて洗面所へ走り、適当に手に水をかけてキッチンにかけ戻った。
「ママ、オニギラズ……」
「うがいは?」
要はまた洗面所へ走り、口に水を含んで吐き出した。それからまたキッチンにかけ戻った。
「ママってば!」
「宿題が終わってから!」
ピシャリと言われ要はしぶしぶ自分の部屋へ向かった。漢字の書き取り1ページを殴り書き、計算ドリルを計算もせずに適当に書き入れ、キッチンにかけ戻った。
「ママ、オニギラズ……」
「できてるわよ」
「え! ママ、オニギラズ作れるの?」
「作れるわよ、そのくらい」
「ママすごーい!」
「さあ、どうぞ」
ママが差し出した皿を、要はポカンと見つめた。皿の上にはご飯で作ったサンドイッチのようなものが乗っかっている。
「なに? これ」
「なにって、オニギラズよ。食べたかったんでしょう?」
要はいかにもがっかりした、というように肩を落とした。
「要、オニギラズ、どんなものだと思っていたの?」
「……怪獣」
ママはあきれて口を開けたまま動かない。
「クラスのみんながオニギラズってすごいって言ってたから……」
しょんぼりしながらも要は残さずオニギラズを食べた。
翌朝もしょんぼりしながら小学校へ行った。帰りの要の足取りも重い。要は小声で「ただいま」とつぶやいて玄関を上がり、きちんとうがいと手洗いをして宿題を終えてからキッチンに行った。
「要、オニギラズできてるわよ」
にこやかなママに、要は口をとがらせてみせる。
「もういいよ、オニギラズは。かっこよくないもん」
「はたしてそうかな?」
ママが指差したテーブルの上には、怪獣が乗っていた。
「要、これがオニギラズよ!」
「カッコいい!」
オニギラズはゴジラみたいな形で全部お米でできていた。ぎゅうぎゅうに固められたご飯の表面に海苔がはってあり、目は梅干し、口はたらこだった。オニギラズは要の頭ほども大きくて、どっしりした様子は超一級の貫禄をたたえている。
要が飽きもせずオニギラズを見つめていると、パパが帰ってきた。
「おお!? なんだこりゃ!」
「オニギラズだよ、パパ! カッコいいでしょ」
パパは要の言葉に曖昧にうなずくとママにたずねた。
「なあ、これ、米何合だ?」
「いちごうだよ、パパ!」
「ええ? そんなわけないだろう。一升はあるんじゃないか?」
「ちがうよ、パパ。これはオニギラズ一号。ね、ママ」
ママはうなずいた。
「一升の一号よ」
パパの口がへの字に曲がった。しばらくは米を食べ続けなければならない。パパは米よりパン派だった。
「ママ、またオニギラズ作ってね!」
要の満面の笑みを見てパパは心の中でギャースと吠えた。




