超個室
超個室
征也のくつろぎスペースはトイレである。生来、狭いところが好きで子供の頃は柱の影や押し入れのすみによく入り込んでいた。そういう子供は案外多いそうだが、大人になってまで狭いところが好きだという人に、征也はまだ出会ったことがない。もしかしたらかなり大勢いるのかもしれないが、わざわざ「私は狭いところが好きで……」などと話し合うことはないだろう。征也も進んで誰かに話そうとは思わない。「トイレが好きで……」などと話せないのはなおさらだ。
子供の頃はトイレに漫画本を持ち込み、それが知れて母からこってり絞られたりしたが、大人になった今では漫画だろうと国語辞典だろうと持ち込み放題だ。しまいには朝食を持ち込んだ。これがめっぽう気に入った。
一時期「便所飯」という言葉が話題にのぼり、その時は友人と「便所で飯なんか気持ち悪すぎる」と笑って話したが、征也は密かに憧れを抱いていたのだ。
実行に移したきっかけはニュースで「便器カレー」を知ったことだ。便器の色見本の小型の便器型陶器にカレーを盛ってあったのだ。ある意味、禁断のカレーだ、と征也は呆然とした。そして、胸の中のもやもやが消えた。一番始めにトイレに持ち込んだ食事はもちろんカレーである。
それ以来、征也の華麗なるトイレ生活はどんどん活躍の場を広げた。征也はトイレに本棚を設置し、衣類をかけるためのポールを取り付け、食事用の折り畳みテーブルを置いた。広くもないトイレがますます狭くなり、征也は満足して笑顔でうなずいた。
ただ、もうひとつ叶えたい夢がある。
トイレの中で眠りたい。これさえ叶えば完璧なトイレ生活なのだ。征也の探求はまだまだ続く。




