クレーマーVSクレーマー
クレーマーVSクレーマー
「まったく、どうなってるの!? この店は!?」
ああ、また神ちゃんのクレームが始まったな、と隆生先生は困り顔で笑う。クレームをつける神ちゃんの口調は神ちゃんの母親にそっくりだ。神ちゃんとお洋服屋さんごっこをしている健も同じような表情を浮かべている。
「このコート、中から髪の毛が出てきたんだけど!?」
「髪の毛?」
「そうよ、気持ち悪いわ!」
神ちゃんはコートをつき出す。健はコート役の、幼稚園の制服であるスモックを受け取り、裏表かえしながらしげしげと眺めた。
「どこにも髪の毛ついてないけど……」
神ちゃんは健の手からコートをひっさらう。
「もう! ちがうでしょ! こういう時は店員は謝るの」
「でも髪の毛ついてないけど」
「ついてなくても謝るの。それがあたりまえでしょ?」
「なんで悪いことしてないのに謝るの?」
「お客様は神様だからよ!」
「うん。お客様は神ちゃんだよ」
「だから謝るの」
「なんで?」
「だからお客様は神様だからよ」
「うん。神ちゃんだよ」
「そうじゃなくて!」
神ちゃんはカンシャクを起こして地団駄を踏んだ。
「お客様はえらいのよ!」
「えらいの?」
「そうよ」
やっとわかったの? と言いたげに神ちゃんは腰に手をあてふんぞり返る。
「たいへんだねえ」
健は神ちゃんの肩をぽんぽんと叩く。
「今日はゆっくり寝なさい」
「え?」
健はいたわるように神ちゃんの肩をぽんぽんし続ける。神ちゃんはわけがわからない、といった表情で隆生先生を見上げた。一連のやりとりを笑いをこらえて見ていた隆生先生は神ちゃんに説明してやった。
「えらい、っていうのは、方言でね『疲れた』っていう意味なんだよ」
神ちゃんはやはり、わけがわからないという顔をして首をひねる。隆生先生はかわいらしいその様子を見て、神ちゃんが将来クレーマーにならないようにと心から願った。




