お願いサンタ
お願いサンタ
サンタさんへ
クリスマスにおねがいします。
ぼくはプレゼントはいりません。
だからママのびょうきをなおしてください。
ケンタより
ケンタは書き終わった手紙を二つに折ってポストにむかった。ポストの投函口はケンタの背では爪先だってやっと届くくらいの位置にある。ケンタが一生懸命手を伸ばしていると、郵便屋さんがポストの集配にやってきた。
「君、なにしてるの?」
優しそうな郵便屋さんのおじさんはにっこりとケンタに笑いかけた。
「サンタさんに手紙書いたからポストに入れるの」
郵便屋さんはケンタが握りしめている紙切れをしばらく見つめて、ケンタからその紙を受け取った。
「よし、おじさんがしっかりサンタさんのところまで届けるからね。君はおうちに帰ってクリスマスまで待っておいで。そうだ、君のお名前は?」
「わたらいケンタ」
「そうか、渡会さんの家の子か。じゃあ、サンタさんにそう伝えておくよ」
「うん! おねがいします!」
ケンタは郵便屋さんに頭を下げてから走っていった。
クリスマスの日、渡会家のポストにケンタ宛ての手紙が入っていた。ケンタは大急ぎで封筒を開けて手紙を読んだ。
「ケンタくんへ
クリスマスのおねがいをよみました。
ざんねんだけど、サンタクロースにびょうきをなおすちからはないんだ。
ケンタくんのママはびょうきでたいへんだ。でもそれよりもたいへんなのは
ママがケンタくんのことをしんぱいでしょうがないってことだ。
しんぱいごとがあると、にんげんはつかれてしまう。
つかれると、びょうきによくない。
だからケンタくんがげんきでいること、ごはんをいっぱいたべて、
いっぱいあそんで、いっぱいねることが、ママのびょうきをなおす
一ばんのおくすりだよ。
ママのびょうきがはやくなおるように、おほしさまにおねがいしておくよ。
サンタより」
ケンタは黙って俯いてしまった。ぽたりぽたりと涙が床にこぼれる。そこにケンタのパパが帰ってきた。泣いているケンタを見てぎょっとしたパパはしゃがみ込んでケンタの顔を覗いた。そしてケンタが握りしめている手紙をそっと受け取り目を通した。
「パパ、サンタさん、うそなの?」
「え?」
「サンタさんは本当はいないの?」
パパはそっと微笑んだ。
「サンタさんはいるよ」
「でも、お願い聞いてくれないよ。ママを元気にしてくれないよ」
「そうだ、ケンタにプレゼントがあるんだった」
パパはポケットから一枚の絵ハガキを取りだすと、ケンタに手渡した。そこにはトナカイと一緒にサンタクロースが写っている。表を見るとママの字でケンタへのメッセージが書いてあった。
「ケンタへ げんきですか? ママのびょうきは、ケンタがげんきにしていたらすぐになおっちゃいます。だからかぜをひかないように、あたたかくしていてね。 ママより」
ケンタは絵葉書をぎゅうっと抱きしめた。
「サンタさんの言った事、ほんとだった。ママ、僕が元気だったら病気治るって書いてある」
「そりゃすごい、さすがサンタさんだ。ケンタ、今からでもプレゼントのお願いをしたらどうだ?」
ケンタはふるふると首を横に振る。
「なにもいらない。ぼくね、今日からサンタになる!」
「サンタに?」
「うん! それでママにプレゼント持って行くんだ」
「何を持って行くんだ?」
「ぼく! ぼく元気だよって、ママに見せるんだ!」
パパは大きな手でケンタの頭をぐりぐりと撫でた。
「じゃあ、急いで病院へ行こう」
「トナカイがいたら良かったんだけどなあ。動物園で借りられないかな」
パパは笑って、ソリのかわりの自動車に小さなサンタクロースを乗せた。




