好きこそものの
好きこそものの
愛は爬虫類、両生類をこよなく愛する幼児だった。一日中たんぼの脇に座ってカエルを見つめたり、庭の隅でヘビの脱け殻を見つけて宝物にしたりしていた。愛の母はそういう生き物が大の苦手で愛の宝物入れに脱け殻を見つけたときは半日泣いて手がつけられなかった。運よく宝物が捨てられなかったのは母が脱け殻に近づくことができなかったからだ。愛は母の目につかないように脱け殻を宝物入れの底に隠した。
大きくなった愛は一も二もなく独り暮らしを始めた。小学生の頃から貯めに貯めたおこづかい、お年玉、入学祝金などをまとめて握りしめペットショップに駆け込んだ。
店をぐるぐると回って爬虫類、両生類たちを見つめる。ひとつのケースの前に二十分は立ち尽くし、見つめ続ける。
かわいい。
愛はうっとりと目を細める。ヘビもカエルもトカゲもかわいい。ついでにサソリのかわいさにも目覚めた。
どの子もこの子もかわいくて目移りして、なかなか一つにしぼれない。もうすべての子を連れて帰りたい。けれどそんなにたくさん飼って育てる自信がない。そもそもペットを飼うなんて初めてのこと。だんだん不安になってきた。
愛は迷いに迷い、けれども決められず、しかし手ぶらで帰るのも悔しく、うんうん唸った。
ふと、ペットショップの向かいの店のショーウィンドウが目に入った。愛の目が大きく開く。
これだ!
愛は貯金をはたき、その店で一番大きな商品を買った。
家に帰り、それを袋から取り出して頬ずりする。ざらざらとした肌触り。愛は鼻をくっつけて匂いを嗅ぐ。皮独特の少し生臭いような匂いにアマゾンの深い川を想像した。そのワニ皮のボストンバッグは愛の宝物になった。




