クリスマスなんて大嫌い
クリスマスなんて大嫌い
琴羽は聖歌隊に所属している。クリスチャンではないけれど歌が好きで、近所の教会の聖歌隊に入れてもらったのが三年前、小学校の五年生の時。それ以来、週二回の練習にかかさず通っている。
小学生のころは文句なしに楽しかった。歌っていれば幸せだった。けれど今年は事情が変わった。
彼氏ができたのである。
「琴羽ちゃん、クリスマスはどこに行く?」
琴羽の彼、太陽くんはさも当然、という顔で琴羽の予定も聞かずに尋ねた。琴羽はおろおろと視線をさ迷わせながら答える。
「ど、どこでもいいよ……」
「じゃあさ、駅前のイルミネーション見て、映画見よう!」
「う、うん……」
琴羽は「楽しみだなあ」とはしゃぐ太陽にクリスマスは予定があると言えなかった。
クリスマスは聖歌隊の晴れ舞台だ。ミサの間に五曲歌う。そのうち一曲は琴羽がソロを歌うのだ。とても休むとは言えない。けれど琴羽が太陽と一緒にクリスマスを楽しみたいというのも本心で、琴羽は迷いに迷い、とうとう知恵熱を出した。
「琴羽ちゃん、大丈夫?」
見舞いに来た太陽に琴羽は顔を向けられず、壁を向いたまま返事をした。
「だ、大丈夫……」
「琴羽ちゃん、クリスマスのことなんだけど。今、お母さんから聞いたよ」
琴羽はびくりと肩を揺らして小さく手足を縮めた。
「讃美歌を歌うんだってね。すごいね、僕も聞きにいくよ」
琴羽はびっくりして起き上がると太陽の顔をまじまじと見つめる。
「……おこらないの?」
「おこる? なんで?」
「クリスマスの約束、したのに」
「うん、楽しみにしてるよ?」
「けど、私ミサに出なくちゃいけないのに、約束守れないよ」
太陽は首をひねる。
「ミサは24日、クリスマスイブでしょ? 僕たち約束したのはクリスマスでしょ?」
琴羽はぽかんと口を開けた。
「約束は25日?」
「そうだよ」
琴羽は枕にぽふんと頭をあずけた。
「大丈夫、琴羽ちゃん? 疲れちゃった?」
「大丈夫。ちょっと力が抜けただけ」
琴羽はうれしそうに微笑み太陽に手を伸ばした。太陽はどぎまぎしながら琴羽の手を握る。熱を持った琴羽の手に、太陽の手はひんやりしているように感じられた。けれど琴羽にとって太陽の手は暖かい安らぎだった。
「クリスマス、楽しみだね」
二人は顔を見合わせてにこりと笑った。
 




