表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今日のおはなし  作者: 溝口智子
金の糸 15
463/888

拝啓、お元気ですか

拝啓、お元気ですか

 秋は早足で過ぎ、紅葉が見えないうちに、もうはや冬がやって来てしまいました。街はクリスマスイルミネーションで、きらきらしています。

 君と一緒に見た駅前のイルミネーション、あの年は青く輝いていたけれど、今年はオレンジ色に暖かそうな光をまとっていたよ。君は明るい色が好きだから今年の駅前を歩いたら、おおはしゃぎしたかな。

 一人で駅前を歩いてみたんだ。たくさんの恋人たちが手を繋いで歩いていた。あの日の僕たちみたいに。みんな幸せそうに、きらきらした光を浴びていた。

 僕はコートのポケットに両手を突っ込んで駅の高くに掲げてある、あの大きな時計を見上げた。午後七時十三分、君が死んだあの時間。僕は毎年あの時計を見上げる。あの日、逢えなかった君が走ってきてくれるような気がして。

 あの日、最後に握った君の冷たい手が、まだ僕の手を握っていてくれるみたいで、僕の右手は君の手を覚えてる。

 駅前にいつまでも立っていて、風邪をひいてしまったみたいで鼻水が出るんだ。君ならすぐに薬を僕の口に突っ込むんだろうね。僕はそれを想像しながら一人で薬局に行ったんだ。薬局もイルミネーションで派手な色合いで、ちょっと笑っちゃったよ。ぴかぴか光るサンタクロースが、おいでおいでって手を振ってたんだ。

 サンタクロースが何でもひとつプレゼントくれるって言ったら、君は何を頼むだろう。大好きなチョコレート? それとも商店街の福引きの一等?

 そんなこと言ったら君は、からかわないでって怒るんだろうな。

 僕が何を頼むか、君にはわかる? あの日、僕は何を引き換えにしてでも君を取り戻したいって思った。神様でも悪魔でも、それこそサンタクロースでもいい、君を取り戻したいって。

 その気持ちは今も変わっていない。きっといつまでも変わらないだろう。

 けれど、クリスマスに祈るのは、君が好きだった人たちが、君を知る人たちが、君を形作っていたすべてのものが、みんなみんな幸せになったらいいって思うんだ。


 なんだか体がぽかぽかしてきた。風邪薬が効いてきたみたいだ。じんわり眠い。そうそう、風邪をひいていたんだった。今夜は早く眠ることにするよ。


 おやすみ、君の夢を見るよ。また手紙を書きます。


敬具

天国にいる、大好きな君に。

いつか逢える日を心待ちに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ