拝啓、お元気ですか
拝啓、お元気ですか
秋は早足で過ぎ、紅葉が見えないうちに、もうはや冬がやって来てしまいました。街はクリスマスイルミネーションで、きらきらしています。
君と一緒に見た駅前のイルミネーション、あの年は青く輝いていたけれど、今年はオレンジ色に暖かそうな光をまとっていたよ。君は明るい色が好きだから今年の駅前を歩いたら、おおはしゃぎしたかな。
一人で駅前を歩いてみたんだ。たくさんの恋人たちが手を繋いで歩いていた。あの日の僕たちみたいに。みんな幸せそうに、きらきらした光を浴びていた。
僕はコートのポケットに両手を突っ込んで駅の高くに掲げてある、あの大きな時計を見上げた。午後七時十三分、君が死んだあの時間。僕は毎年あの時計を見上げる。あの日、逢えなかった君が走ってきてくれるような気がして。
あの日、最後に握った君の冷たい手が、まだ僕の手を握っていてくれるみたいで、僕の右手は君の手を覚えてる。
駅前にいつまでも立っていて、風邪をひいてしまったみたいで鼻水が出るんだ。君ならすぐに薬を僕の口に突っ込むんだろうね。僕はそれを想像しながら一人で薬局に行ったんだ。薬局もイルミネーションで派手な色合いで、ちょっと笑っちゃったよ。ぴかぴか光るサンタクロースが、おいでおいでって手を振ってたんだ。
サンタクロースが何でもひとつプレゼントくれるって言ったら、君は何を頼むだろう。大好きなチョコレート? それとも商店街の福引きの一等?
そんなこと言ったら君は、からかわないでって怒るんだろうな。
僕が何を頼むか、君にはわかる? あの日、僕は何を引き換えにしてでも君を取り戻したいって思った。神様でも悪魔でも、それこそサンタクロースでもいい、君を取り戻したいって。
その気持ちは今も変わっていない。きっといつまでも変わらないだろう。
けれど、クリスマスに祈るのは、君が好きだった人たちが、君を知る人たちが、君を形作っていたすべてのものが、みんなみんな幸せになったらいいって思うんだ。
なんだか体がぽかぽかしてきた。風邪薬が効いてきたみたいだ。じんわり眠い。そうそう、風邪をひいていたんだった。今夜は早く眠ることにするよ。
おやすみ、君の夢を見るよ。また手紙を書きます。
敬具
天国にいる、大好きな君に。
いつか逢える日を心待ちに。
 




