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今日のおはなし  作者: 溝口智子
金の糸 15
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書き方のお時間

書き方のお時間

「上手に書けたねえ」


 生まれて初めて書いた筆文字を誉められて、多恵は書道の虜になった。

 多恵の両親は字が汚いのがコンプレックスだったから、多恵が一生懸命、書道の練習をしているのを嬉しそうに眺めていた。

 けれど、幼稚園から書道教室に通いだし、小学校の六年生になった今まで、字は汚いままだ。学校の書写の時間に書いた字は、朱色の×がたくさんついてくる。

 それでも書道教室の先生はいつも「上手に書けたねえ」と言う。


 小学校の卒業式のあと、多恵は書道教室に挨拶に行った。あまりにも上達しないので、書道は諦めようと思っていた。それで、思いきって聞いてみた。


「先生、私の字、汚いですよね?」


 先生はにこりと笑うと首を横に振った。


「あなたの字は、とても上手です。字が好きで一生懸命書いているのがわかります」


 多恵は手をぎゅっと握って下を向いた。


「でも、へたですよね」


 先生は優しく笑う。


「字には、その人がまるまる表れます。怒っているときは怒った文字、悲しいときは悲しい文字。多恵さんの文字はいつもにこにこ優しい文字です」


 多恵は顔を上げ、教室の壁に貼られた自分の書を見た。大きな花丸がついたヘタクソな文字。けれど多恵が一生懸命書いた文字。


「多恵さんは自分の文字が嫌いですか?」


「嫌いじゃないです」


「好きですか?」


 多恵は思い出をたどる。

去年は小学校の書写の時間に初めて○をもらった。その○は、自分の名前の一字だけだったけど、嬉しかった。三年生の時、隣の席の子が書き順を間違っていた時、教えてあげたら、すごいねって言ってもらえた。幼稚園、誰よりも先にひらがなを全部、書けるようになった。

 全部、書道が好きだったからだ。自分の字が好きだったからだ。


「好きです」


 先生はにこりと笑うと、半紙に大きな花丸を書いて多恵にくれた。


「小学校卒業おめでとう」


 多恵は深々と頭を下げ、卒業証書を受け取った。


「これも持ってお帰り」


 そう言って先生が壁から剥がした多恵の書を渡してくれた。そこには大きな字でのびのびと「大器晩成」と書いてあった。

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