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今日のおはなし  作者: 溝口智子
金の糸 15
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行く年、来る年、過ぎる年

行く年、来る年、過ぎる年

 年末年始の予定が決まった。仕事である。

 今のところ二つの仕事を掛け持ちする予定なのだ。一方は内職、一方は外に勤めに行く。決まったのは内職の方のスケジュールで、外勤はまだ始まっていない。けれど外勤も年中無休、シフト制の仕事であるから出勤になる可能性は高い。今年は正月らしい正月は送れないらしい。


 と言っても、正月だからとなにか特別な事をするわけではない。せいぜい朝寝、朝酒、朝湯と身上を潰しそうなぐーたらをするだけだ。それならば稼ぎに出て少しでも貯金する方が建設的だと言える。正月と言ったって、普段の生活と変わる事などそうないのだから。


 二十年ほど前の正月は特別感があった。町中しんと静まり、車はほとんど走っておらず、テレビを付けるとどこでも新春の芸能の披露だとか、隠し芸大会だとか、当時、子供だった私には興味のない番組ばかりだった。遊ぶと言ってもなんだか友達の家に行くのもはばかられ、家でカルタなどして暇をつぶした。

 店も会社もどこも一斉に休んでしまうので、正月準備をしておかないと、三が日は食うものに困るという時代だった。そんな時におせちは子供の口にはあわずとも、必要不可欠なものだった。


 それが変容したのはコンビニが台頭しだしてからだと思う。

 近所にセブンイレブンができた時の衝撃を、今でも覚えている。二十四時間、三百六十五日、働きつづける店。盆暮れ正月も関係なくいつでも買い物ができる店。そのころはまだ食品類が今ほど豊富ではなかったけれど、それでもおせちの準備をしなくても正月に飢える事がなくなった。おせちに飽きればコンビニに行きジャンクフードを買い込む事ができた。


 日本人はなぜそんなに働きたがるのだろう? とこれから三百六十五日、日曜祝日関係なく働きに行く私なのだが疑問に思う。便利を追及して、不自由を獲得して。必死に働いても私などみたいに貧しい人が多くて。日本人はどこへ向かっているのだろう。


 来年はまた何か一つ変わるのだろう。一つと言わず二つ三つ四つ、いくらでも。世の中は変わり、穏やかな世に変わるのか、激動の世に変わるのか。そのどちらでも、人の営みはたいして変わることはないのだろう。起きて食って働いて寝る。それだけできれば万万歳だと思う。

 

 正月にもう、おせちを作るのは止めようかと言い続けて数年がたった。それでも暮れが迫るとやはり体がおせちを欲する。この体に沁みついた食習慣だけが、今のところ私に残された最後の昔懐かしい正月のようだ。そして正月に暇を持て余したらコンビニに行って何を買うでもなくうろうろするのだ。

 何を食べても、どこにいても、来年も変わらずに生きていけたら。それが一番の願いである。

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