深夜のラジオ
深夜のラジオ
思えば私はよく寝る子供だった。
小学生の間は夜九時までには布団に入っており、朝は七時半までいびきをかいていた。いまではロングスリーパーという単語も知り、長時間睡眠が必要なことに違和感もないが、高校生の頃は自分がいつまでも幼いように思えて十時過ぎには眠くなってしまうことを同級生には話せなかった。同級生たちは深夜まで試験勉強をしているというのに。私にとっての深夜は午後十時半過ぎのことだった。
祝日の前の日だったと思う。めずらしく夜更かしをした。と言ってもたかが十時半過ぎまで起きていただけなのだが。突然部屋の片付けをしたくなり戸棚など漁っていると小さなラジオが出てきた。電源をいれると、ちゃんと音が出た。ダイヤルをくるくる回していると、聞きなれた声がした。声優の塩沢兼人さんが台詞を喋っていたのだ。私はその時に初めてラジオドラマというものを知り、即座に虜になった。塩沢兼人さんが好きだったこともあるし、その時のドラマが好きなSFだったことも私をラジオドラマ好きにさせた要因だったと思う。
ラジオから流れる音だけでありありとシーンが脳裏に映し出された。異星を探検する人々。立ちふさがる巨大生物。戦いの果てに倒れた塩沢兼人さんの掠れた吐息の色っぽかったこと!
私は毎日、十時四十五分にラジオをつけるようになった。週がわりで様々なドラマが流れていた。
しかし、如何せん私にとって十時四十五分は深夜なのだ。眠い目をこすりながら何とかラジオのスイッチは入れたもののドラマを聞きながら眠ってしまうことがほとんどだった。ストーリーテリングの睡眠学習をしていたのだとうそぶいてみても、聞き逃した悔しさは今も残っている。
その番組はNHKラジオ『青春アドベンチャー』。
今なお続く人気番組だ。大人になり夜更かしできるようになったのに、今はもう聞いていない。たまには青春を思いだしラジオのダイヤルを回してみようか。
懐かしいあの声にはもう出会えないけれど、あの日のワクワクしながら眠い目をこすった想い出は耳の中によみがえるだろうから。
 




