だいこうぶつ
だいこうぶつ
「ぜったい、コロッケ!!」
「だめ!メンチカツ!」
「もう、どっちでもいいから早く決めてよね」
妹の真由はわがままだ。
ママが
「おやつにスーパーの安売りのメンチカツか、コロッケを買おうか?」
といったので、ボクとママと真由でスーパーにきたんだ。
メンチカツもコロッケも値段はおなじ、1パック100円。
ただ、コロッケは3コいりなのに、メンチカツは2コいり。
「ママの分はいいから、好きなほうを選びなさい」
ってママはいうけど、ぜったい、ママもいっしょに食べた方がおいしいに決まってる。
けど、真由は「メンチカツがおいしいから、メンチカツがいい!」ってダダをこねてゆずらない。
「ねえ卓、メンチカツにしたら?お兄ちゃんが譲ってあげようよ」
「でも、ママ!」
「オニイチャンなんだから!ガマンしてよ!」
真由がさけぶ。ボクがにらんだら、真由はママの後ろにかくれた。
「ね、今日はメンチカツにしよ。コロッケなら、いつも安いんだから」
ママはメンチカツのパックを取ると、さっさとレジに向かう。真由はママのスカートにまとわりついて甘えてる。
ボクはコロッケのパックを見つめて1、2、3とコロッケの数をかぞえた。
家にかえって、ママがメンチカツを2まいのお皿にいれてくれた。
真由は両手でメンチカツをにぎると、半分にわった。そして右手にもったほうをママにさしだした。
「はい、ママ!はんぶんあげる!」
「あら、真由ちゃん、やさしーい。いいの?うれしいな」
真由はママとメンチカツを半分こして、ニコニコしている。
そんな!これじゃボクがわるものみたいじゃないか!
「あら、卓、どうしたの?メンチカツ食べないの?」
「……いらない」
「もう、わがまま言わないで。おいしいよ?」
「いらないってば!」
ボクはさけんで玄関をとび出した。
家のまえは、すぐ、大きな車が行きかうせまい道。
ボクの体はダンプにはね飛ばされて宙にまった。
お線香のにおいが甘くただよう台所で、17歳になった真由がコロッケを揚げている。
「ああ、いいにおいね。真由、コロッケだけは上手になったわよね」
そういいながら、ママが台所に入ってくる。
「失礼な。肉じゃがだってカレーだって上手ですよーだ」
「どれもジャガイモ料理ばっかりじゃない。……このお皿、仏壇でいいの?」
「うん。お兄ちゃんの分だから」
ママはコロッケが山もりにしてあるお皿をかかえると、ボクのための仏壇の前にはこぶ。
お皿を台におくと、あたらしいお線香に火をつけた。
「卓の命日は、毎年コロッケになっちゃったわねえ。
真由は覚えてないだろうけど、ママは覚えてるよ。卓の大好物はメンチカツだったよね。
あの時、コロッケがいいって駄々をこねたのは、ママにも一個食べさせてくれようとしたんでしょう?
ごめんね、何も言ってあげなくて。ごめんね、コロッケ買ってあげなくて」
ママ、だいじょうぶだよ。
あのころボクはメンチカツが好きだったけど、今のボクの一番すきな料理は、真由が揚げたコロッケなんだから。
だから、なかないで、ママ。
「ママー。ご飯だよー」
台所から真由がよぶ。ママはそっと、なみだをぬぐうと、ボクにエガオを見せてから、台所へむかった。
僕はコロッケの香りを胸いっぱいにすいこんだ。
コロッケの香りのついた湯気は、ボクをすり抜けて仏壇にすいこまれていった。




