アメブ 4 新人類万歳。
アメブ 4 新人類万歳。
梅雨の晴れ間のカラリとさわやかな一日。その放課後いつものように一人心静かに飴を作っていると、バアン! と盛大な音を立てて調理室のドアが開いた。
「たのもーーーーう!!」
仁王立ちで叫んだのは、髪を耳の上で二つに結んだ、いわゆるツインテールという髪型の小柄な女生徒だった。セーラー服のリボンの色から新入生だということがわかる。
「たのもう!!」
あっけにとられポカンと口を開けていた俺に、その可愛らしい顔をした女子は道場破りの常套句であるところの『たのもう』を繰り返した。
「はあ。なんでしょうか……」
いささか間の抜けた返答だが、ほかになんと言葉をかければいいか、皆目見当がつかなかった。
「入部希望です!」
「あ、ああ。入部……。え!? 入部!? うち、柔道部とか格闘技系じゃないよ!?」
「もちろん、わかっております! 自分、高校に入ったら変わろうと決めていたんです! 女子らしい可愛らしい女になりたいんであります!」
「ようこそ! アメブへ!!」
いつからそこにいたのか、女生徒の後ろから部長がとつぜん叫んだ。グリコのポーズで歓迎の意を表している。女生徒はちっとも驚いた様子も見せず、くるりと部長の方に振り返ると90度に腰をおり
「押忍! よろしくおねがいします!!」
と腹の底から絞り出した堂々たる気迫のこもった挨拶をした。
「はい、よろしくおねがいします! 私が部長で、彼が副部長です」
「え、俺、副部長だったんですか?」
「もちろんです。だって二人しか部員がいないんですもの」
「じゃあ、自分が三人目の部員ですか! この部を盛り上げるため不撓不屈の精神でがんばります!」
「まあ、すばらしいわ! じゃ、さっそく作ってみましょう、アメを!」
部長が片手に鍋、片手に上白糖を持ち、女生徒の方へ突き出してみせる。女生徒は一瞬ひるんだ。うーむ。この女をひるませるとは、さすが部長。向かうところ敵なし。
などとどうでも良いことに感心していると、女生徒はおずおずと口を開いた。
「あの、自分は……アメはちょっと……」
「ええ!? まさか、き、きらいなんですか!」
部長は世界の終わりかというくらいショックを受けている。
「いや! キライではないのですが、どちらかというとあまり得意ではないというか……」
「そんな! まさかこの学校にアメ部外者がいるなんて……」
「え、この学校とアメにどういう関係が……」
俺はみょうな既視感を覚える会話に、横から口をはさんだ。
「あのさ、君は……」
「自分は、斉藤 豪と言います!」
「ご、豪? 本名?」
「はい! 武道家の祖父が名づけてくれました!」
「あ、あっそう……。で、斉藤さんは、なんでアメブに入部しようと思ったの?アメが苦手なのに」
「アメブ? いえ、自分は調理クラブに入部するのですが」
「あら、豪ちゃん、うちの学校には調理クラブはないのよ」
それを聞いた時の斉藤豪の表情は、一種、すばらしかった。鬼神もかくやというほど恐ろしい怒りと絶望のオーラを発していた。対する部長は菩薩の慈悲を感じさせる笑顔で言う。
「アメブは食べるほうじゃなくて、作る方だから、アメが苦手でも大丈夫よ。それに、可愛らしいアメを作る女の子は、とっても女子らしくて可愛らしいと思うわ」
斉藤豪は満面に笑みを浮かべ
「師匠! ついていきます!」
と、あまり可愛らしくない入部の挨拶を繰り出したのだった。




