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今日のおはなし  作者: 溝口智子
金の糸 15
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アメブ 4 新人類万歳。

アメブ 4 新人類万歳。

 梅雨の晴れ間のカラリとさわやかな一日。その放課後いつものように一人心静かに飴を作っていると、バアン! と盛大な音を立てて調理室のドアが開いた。


「たのもーーーーう!!」


 仁王立ちで叫んだのは、髪を耳の上で二つに結んだ、いわゆるツインテールという髪型の小柄な女生徒だった。セーラー服のリボンの色から新入生だということがわかる。


「たのもう!!」


 あっけにとられポカンと口を開けていた俺に、その可愛らしい顔をした女子は道場破りの常套句であるところの『たのもう』を繰り返した。


「はあ。なんでしょうか……」


 いささか間の抜けた返答だが、ほかになんと言葉をかければいいか、皆目見当がつかなかった。


「入部希望です!」


「あ、ああ。入部……。え!? 入部!? うち、柔道部とか格闘技系じゃないよ!?」


「もちろん、わかっております! 自分、高校に入ったら変わろうと決めていたんです! 女子らしい可愛らしい女になりたいんであります!」


「ようこそ! アメブへ!!」


 いつからそこにいたのか、女生徒の後ろから部長がとつぜん叫んだ。グリコのポーズで歓迎の意を表している。女生徒はちっとも驚いた様子も見せず、くるりと部長の方に振り返ると90度に腰をおり


「押忍! よろしくおねがいします!!」


 と腹の底から絞り出した堂々たる気迫のこもった挨拶をした。


「はい、よろしくおねがいします! 私が部長で、彼が副部長です」


「え、俺、副部長だったんですか?」


「もちろんです。だって二人しか部員がいないんですもの」


「じゃあ、自分が三人目の部員ですか! この部を盛り上げるため不撓不屈の精神でがんばります!」


「まあ、すばらしいわ! じゃ、さっそく作ってみましょう、アメを!」


 部長が片手に鍋、片手に上白糖を持ち、女生徒の方へ突き出してみせる。女生徒は一瞬ひるんだ。うーむ。この女をひるませるとは、さすが部長。向かうところ敵なし。

 などとどうでも良いことに感心していると、女生徒はおずおずと口を開いた。


「あの、自分は……アメはちょっと……」


「ええ!? まさか、き、きらいなんですか!」


 部長は世界の終わりかというくらいショックを受けている。


「いや! キライではないのですが、どちらかというとあまり得意ではないというか……」


「そんな! まさかこの学校にアメ部外者がいるなんて……」


「え、この学校とアメにどういう関係が……」


 俺はみょうな既視感を覚える会話に、横から口をはさんだ。


「あのさ、君は……」


「自分は、斉藤 豪と言います!」


「ご、豪? 本名?」


「はい! 武道家の祖父が名づけてくれました!」


「あ、あっそう……。で、斉藤さんは、なんでアメブに入部しようと思ったの?アメが苦手なのに」


「アメブ? いえ、自分は調理クラブに入部するのですが」


「あら、豪ちゃん、うちの学校には調理クラブはないのよ」


 それを聞いた時の斉藤豪の表情は、一種、すばらしかった。鬼神もかくやというほど恐ろしい怒りと絶望のオーラを発していた。対する部長は菩薩の慈悲を感じさせる笑顔で言う。


「アメブは食べるほうじゃなくて、作る方だから、アメが苦手でも大丈夫よ。それに、可愛らしいアメを作る女の子は、とっても女子らしくて可愛らしいと思うわ」


 斉藤豪は満面に笑みを浮かべ


「師匠! ついていきます!」


 と、あまり可愛らしくない入部の挨拶を繰り出したのだった。

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