すみわけ
すみわけ
香澄は隅っこが好きだ。隅っこにうずくまっているとえもいわれぬ満たされた気持ちになる。
前の家は良かった。香澄の部屋には太い柱があり、柱と壁の間にすっぽりとはまることができた。押し入れもあったから日がな一日、押し入れにはまっていたことも多かった。
母はそんなでこぼこした家が大嫌いで父をせっついて家を新築させた。新しい家は木の香りのする清潔で住まいやすいものになった。けれど香澄は新しいだだっ広いフローリングの自分の部屋が好きになれない。部屋の角に座ってみても部屋はがらんとして逃げ場がなかった。
香澄は日に日に弱っていった。
母は心配して香澄を病院に連れていった。何軒かの病院を巡り、たどりついた一軒の病気で開所恐怖症という診断を受けた。
「開所恐怖症? そんな病気聞いたこともありません」
「そりゃそうでしょう。私も初めて診断しました」
「そんな適当な……」
母はあきれて香澄を連れて帰ったが、香澄の様子を見るにつけ、本当に開所恐怖症なのではないかと思えてきた。
ためしに段ボール箱を香澄に与えると、香澄は嬉々として段ボールにはまりこんだ。
食欲も戻り、元気に歩き回った。
母は本当に開所恐怖症だったのか、と驚いて香澄にいくつもいくつも段ボールを与えた。香澄は日替わりで段ボールにはまりこんだ。
一ヶ月もすると、つやがなくなっていた香澄の毛並みも元に戻り、母はいつものように丁寧にブラッシングした。
猫の香澄は喉をごろごろ鳴らして満足げに目を細めた。
 




