アメブ
アメブ
とつぜん、ものすごくカワイイ女子に、ウデをつかまれた。
「アメブに入りませんか!?」
「……は、はいります」
その子はあまりにかわいすぎた。あまりに俺好みだった。あまりに突然だった。
あまりの勢いに、俺は活動内容も不明な「アメブ」に入部してしまった。
「では、まずは、好きなようにやってみてください!」
「や、あの、その前に……」
入部初日。
すっごくカワイイ女子、アメブ部長の小阪ともみ、と名乗った女子生徒に連れられ、調理実習室へ連れてこられた。
他にも部員がいるのかと思ってたら、ともみと俺だけ。……ラッキー。
……ではなく。
調理台の上には様々な調理器具が並んでいるが、俺には「鍋」以外のものの名前もわからない。自慢ではないが、生まれてこの方16年、料理なんてしたことない。俺は、ともみに質問した。
「アメブって、なんの部活?」
「え!! あー、あー、あー。そうですよね、突然じゃ戸惑いますよね!
あのね、我がアメブは、食べる系ではないんです。作る系」
そういうと、ともみは(これでよくわかったでしょ?)と言わんばかりの笑顔で俺を見る。いや、わからない。なにひとつ。
「いや、作る系って、なにを?」
「え!!! もちろん、飴を」
「いや、どうやって?」
「え!!! もしかして、ももも、もしかして、飴初心者……ですか?」
「はい。初心者です」
もしかして、ともみが言ってるのが、キャンディーの飴であるならば。もちろん、俺は初心者だ。ちとせあめを食べて以来、飴は口にしていない。作ったことなどあるはずもない。
が、俺の返答を聞いたともみはワナワナと唇を振るわせる。
「ま、まさか……この学校に飴初心者がいるなんて……」
「えーーーー。この学校と飴の関係がわからないんだけど」
ともみは、キッと俺をにらむと、とうとうと語りだした。
「そもそも、この学校の始まりは永禄3年、この地方の豪族、麦芽糖甜菜斎が砂糖の製造を始めた事により……」
歴史に一個も興味がない俺は、必死でアクビを噛みしめた。ガマンだ、俺。ここでアクビしたらバラ色のスクールデイズ、ともみとフォーリンラブが水の泡だ。
俺の40分のガマンの後、ともみはこれ以上はないカワイイ笑顔を俺に向けてくれた。
「じゃ、さっそく、作ってみましょう」
……で、結局、何の因果か。
俺は飴作りの世界に足を踏み入れ、ベッコウ飴、綿飴、りんご飴、晒し飴、サルミアッキまで作るようになってしまい。
まったく、何の因果か、今度の学園祭では「スイーツ倶楽部」の部長と飴対決して、負けたほうは廃部になるという、お約束だが意味がわからない展開に巻き込まれてしまっているが、
「だいじょうぶ、君なら、どんな飴でも作れるよ」
と、にっこり笑う部長のカワイイ顔を見ると、すべて「どうでもいいか」と思えてしまう。
そして今日も俺は、黙々と飴を作り続けるのだった。
 




