プレゼント
プレゼント
「まいったなぁ…」
一夫はお金が入った封筒を握りしめて途方にくれた。部長の退職祝いのプレゼントを任されてしまったのだ。予算は三万円。
「まいったなぁ…」
一夫は貧乏性で贅沢をしない。部屋のなかはほとんど百均で買ったもので満たされている。三万円などという大金は家賃以外に使ったことがない。
しかし何かは仕入れないとならない。とりあえず百貨店に行ってどんなものなら三万円するのかリサーチすることにした。
ネクタイは三万円まではしない。しかも退職したら必要なくなる。
食器で最高額はクリスタルのシャンパングラスで一万数千円。部長は酒は飲まない。
靴やジャケットは軽く三万円を越えるが退職のプレゼントにはできない。まず、サイズがわからない。
文房具は……と見ていて、ぴったり三万円のものを見つけた。
万年筆だ。
たしか部長は日記を欠かさず書いているという。筆まめで手紙もよく書くらしい。
「これだ!」
一夫は嬉々として万年筆を買うことにした。
しかし支払い時に、消費税を込めると二千四百円円足が出ることに気づき、泣く泣くあきらめた。
売り場を去るとき、万年筆に名残を感じた。プレゼント用に見ていたのに、じっくり検討しているうちに自分が欲しくなってしまった。
いつかお金を貯めて、あの万年筆を買おう。
そう決めてプレゼント選びに戻った。
その夜、一夫は帰宅すると万年筆を迎えるために机を片付けた。一番良い湯飲みをペン立てにした。買って帰った日記帳を机の上に置いた。
それだけで部屋は明るく重厚になったように感じられた。
部屋を見渡し満足して、財布の中の小銭を全部貯金箱に入れた。
小銭貯金で三万円を貯めるには少々時間がかかるだろう。その間に万年筆が似合う男になろう。
一夫はそう決意するとジャケットを脱いで丁寧にハンガーにかけた。




