表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今日のおはなし  作者: 溝口智子
金の糸 15
417/888

プレゼント

プレゼント

「まいったなぁ…」


一夫はお金が入った封筒を握りしめて途方にくれた。部長の退職祝いのプレゼントを任されてしまったのだ。予算は三万円。


「まいったなぁ…」


一夫は貧乏性で贅沢をしない。部屋のなかはほとんど百均で買ったもので満たされている。三万円などという大金は家賃以外に使ったことがない。

しかし何かは仕入れないとならない。とりあえず百貨店に行ってどんなものなら三万円するのかリサーチすることにした。


ネクタイは三万円まではしない。しかも退職したら必要なくなる。

食器で最高額はクリスタルのシャンパングラスで一万数千円。部長は酒は飲まない。

靴やジャケットは軽く三万円を越えるが退職のプレゼントにはできない。まず、サイズがわからない。

文房具は……と見ていて、ぴったり三万円のものを見つけた。

万年筆だ。


たしか部長は日記を欠かさず書いているという。筆まめで手紙もよく書くらしい。


「これだ!」


一夫は嬉々として万年筆を買うことにした。

しかし支払い時に、消費税を込めると二千四百円円足が出ることに気づき、泣く泣くあきらめた。


売り場を去るとき、万年筆に名残を感じた。プレゼント用に見ていたのに、じっくり検討しているうちに自分が欲しくなってしまった。

いつかお金を貯めて、あの万年筆を買おう。

そう決めてプレゼント選びに戻った。


その夜、一夫は帰宅すると万年筆を迎えるために机を片付けた。一番良い湯飲みをペン立てにした。買って帰った日記帳を机の上に置いた。

それだけで部屋は明るく重厚になったように感じられた。

部屋を見渡し満足して、財布の中の小銭を全部貯金箱に入れた。

小銭貯金で三万円を貯めるには少々時間がかかるだろう。その間に万年筆が似合う男になろう。

一夫はそう決意するとジャケットを脱いで丁寧にハンガーにかけた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ