応酬
応酬
「もしもし」
「もしもし!」
「もしもーし!」
無言電話だ。
いつもならば無言電話なんか放って、切ってしまえばいいと軽く考える。
しかし今日は電話が通じないと困るのだ。
返事がくるのだ。彼女から。
プロポーズの。
約束の時間がすぐそこに迫っているのだ。
固定電話は、こちらが切ってもあちらが切らないと通話状態が続くのだと聞いたことがある。
確実にあちらの電話を切らせないといけない。
「いたずらはやめてください」
「こら!いい加減にしろ!」
「ばっかじゃないの?」
思い付く限りの言葉を電話にぶつけてみたが、反応はまったくない。もしや、電話の向こうは無人なのでは……?
不安になったが、諦めるわけにはいかない。
目には目を。歯には歯を。
いたずらにはいたずらを。
嫌がらせをしよう。
電話でできる嫌がらせ……。
ジャイアンのリサイタルを延々聞かせる。残念ながら知り合いにジャイアンはいない。
母の愚痴を延々聞かせる。残念ながら独り暮らしだ。
「そうだ」
冷蔵庫に走り納豆を取り出す。器に入れて箸をとり電話のところに戻る。受話器に納豆を近づけ、思いきり混ぜた。
ネッチネッチネッチネッチ……
三十秒ほど混ぜて受話器を耳に当てるとツーツーと通話終了を知らせる音がしていた。
買った。
いたずらでいたずらを上回った。
これで心置きなく彼女からの電話を待てる……
その時、携帯電話に彼女からの着信が入った。
いたずら電話との攻防は無駄に終わった。




