ぬるくなった部屋の中
ぬるくなった部屋の中
日の射しこまない部屋で二人ぼうっとテレビを見ている。昨夜のまじわりのあとそのままに乱れたベッドによりかかりながら。
女のテーブルの上にはぬるくなった缶コーヒー。昨夜一口だけ口を付けてそのまま置いたまま。あたたかかった名残は何もない。
女は膝を抱きコマーシャルの乱雑な色を瞳に反射させている。男は横目でそんな女の爪先を見ている。床に散らばった雑誌はページが折れ曲がりもう読まれる事はない。
男は立ちあがり冷蔵庫から冷えたビールを取り出しテーブルに置く。口は切ったが口は付けず缶についていく水滴を見ている。水滴はテーブルに丸く滲みを作る。女のテーブルクロスについたもう目に見えない滲みはあたたかくもなくつめたくもなく、ぬるいままもうそこにあった事もわからない。
男はだまったまま服を着ると、女を見ずに部屋を出た。
女は立ちあがると湯を沸かし、濃いコーヒーを淹れた。
真っ黒なコーヒーからまっ白な湯気が立つ。女の顔を映しもせず、あたたかいコーヒーはぬるくなっていく。
女は抱いた膝に顔をうずめ、ためいきでがらんとした部屋の空気を細くゆらした。
 




