星に願いを
星に願いを
真美子の部屋には10月だというのに七夕の笹が飾られている。枯れてしまって薄茶色、さわればかさかさと葉が散る。
七月七日には玄関の軒先に飾られていたが、日を過ごし捨てられそうなところを真美子が拾い上げた。
短冊に書いた願いが叶うまで、取っておくのだ。
毎年、真美子の願いは一つだけ。
『お母さんに会えますように』
最初は文字にならないような文字だったが、今ではきれいな字が書けるようになった。
願いを書き続けて七年。願いはまだ叶わない。
ある日、中学校から帰ってくると、部屋にあった笹が無くなっている。
「お父さん!笹、どうしたの!?」
真美子は居間に駆け込んだ。そこには父と知らない女の人が並んで座っていた。
「真美子、新しいお母さんだぞ」
知らない女の人はにこりと笑って見せた。
「始めまして真美子ちゃん、よろしくね」
真美子は唖然として口を開いた。
「真美子、お母さんに挨拶しなさい」
「お父さん……、お母さんのこと忘れちゃったの?」
「忘れたりしないさ」
「じゃあ、なんで!?なんでお母さんを待つのをやめたの!?」
「真美子、お母さんはな、今日死んだんだ。失踪してから七年たつと死亡と認定される。だからな……」
真美子はゆっくりと腕をくみ、胸ポケットのあたりを撫でた。
「だから、お母さんの財産を奪って、その女と分けるんだ」
「真美子、何を言って……」
「お母さんはあなたが殺した」
父はびくりと体を揺らした。そして真美子を睨み付けた。
「私、見てたの。あなたがお母さんの首を絞めるところ。死体を庭に埋めるところ。穴を埋めて笑ったところを」
「真美子、それは本当じゃない。夢を見たんだろう」
真美子は無言で庭に出ると、庭の隅に捨てられていた笹で地面を掘り返しはじめた。
「やめろ!」
父が裸足で飛び出してきて真美子の手から笹を取り上げた。
「殺した」
「殺してなんかいない!」
「その子も殺しましょうよ」
部屋の中から女が話しかけた。
「その女と一緒にお母さんを殺したんだ」
女が美しく微笑む。
「そうよ」
「あなたはお母さんを裏切ったんだ。あの女のために」
女がくすくすと笑う。
「ほら、だから言ったじゃない。中学生なんてもう騙せる年じゃないって。ねえ、殺しましょう」
父は両手を固く握り女に背を向けた。女はしたたるような笑みで父の心を揺さぶる。
「私がいなくなっても生きていける?」
父はおそるおそる女を見る。女の笑みは恐ろしいほどに美しい。
父は真美子に飛びかかるとその首に両手をかけた。
「うぐ!」
真美子は唸り、もがき、父の手を引っ掻いた。けれど父の手は強く真美子の首を絞めあげる。女が朗らかに笑っている声が聞こえる。父の顔にはなんの表情も浮かんでいない。
次第に真美子の視界は暗く染まり、サイレンのような音を最後に意識が途切れた。
目を開くと、担架に乗せられ運ばれていくところだった。庭には多くの警官がいて、手錠をかけられた父と女が何がおきたかわからずに呆然としていた。
真美子と目があった父が警官の制止をふりきり真美子に駆け寄り揺さぶった。
「お前、何をしたんだ!?どうして警察が……」
その時、真美子の胸ポケットからするりとスマホが滑り落ちた。通話状態のまま、その場の声を警察署に届け続けている。
「買ってやるんじゃなかった……」
父はスマホを手に取ると静かに電源を切った。
「出ました!人骨です!」
真美子がそちらに目をやると、庭の穴から骨が取り出されたところだった。
「……お母さん」
真美子の目から一筋の涙がこぼれた。
 




