ばあちゃんの魔法
ばあちゃんの魔法
ばあちゃんが癌で死んでから、尚は自分の部屋に閉じこもるようになった。
尚はばあちゃんが大好きで小学校から帰ってくると、一番にばあちゃんの部屋に駆けていった。
ばあちゃんの部屋は南向きの和室で、縁側からばあちゃんが育てている花が見えた。ばあちゃんはいつも座椅子に座って庭を見ていた。
尚は自分の部屋で枕に顔を押し付けて泣く。母さんに知られたら「いつまでも泣くな」と叱られてしまうから。
叱られると尚はますます悲しくなる。
そんな時いつも尚は、ばあちゃんの所に逃げていったのだ。そうするとばあちゃんが元気が出る魔法をかけてくれた。
「尚、目をつぶって、あーんってしてごらん」
言われた通りにすると、舌にぽとりとなにかが落ちてきた。
それは少しひやりとして、やわらかく甘かった。尚は目を開けてばあちゃんにたずねた。
「これ、なに?」
「魔法の薬だよ。尚が元気になるようにね」
そう言ってばあちゃんはパチリとウインクしたのだった。
尚は母さんに見つからないように、そっとばあちゃんの部屋に入った。
ばあちゃんの座椅子に座ってばあちゃんが見ていた庭を見る。また泣きそうになって、尚は座椅子の肘掛けをぎゅっとにぎった。
カタリ、と肘掛けが音をたてた。よく見ると、肘掛けには小物入れがついていて、開くようになっていた。
開けてみるとそこには手紙が入っていた。ばあちゃんの文字だ。「尚へ」と書いてある。
尚は急いで手紙を開けた。
『尚へ。
尚がこの手紙を読んでいるとき、ばあちゃんはもう死んでるでしょう。
尚はずっと泣いてるでしょう。ばあちゃんは尚に魔法をかけに行ってやりたい。
でも、天国は一方通行なの。来てしまったら帰れない。
だから尚に魔法の薬を残して行きます。これからは自分で魔法を使うんだよ。
ばあちゃんは天国から見ています。』
手紙の下には小さな箱が入っていた。開けてみると中にはいつもばあちゃんがくれた魔法の薬があった。尚は一つつまんで口に入れた。
でもそれはただの和三盆糖なのだ。尚はずっと前から知っていた。
けれど、和三盆はばあちゃんの姿をしっかりと思い出させてくれた。
「ちちんぷいぷい、強い子になあれ」
ばあちゃんが言ってくれた魔法の言葉を口にすると、尚は箱を元に戻して立ち上がった。
ガラリとふすまが開いて母さんが入ってきた。
「尚!また泣いてるの!いつまでもメソメソしないで!」
尚は笑顔でふりかえる。母さんはビックリして口を閉ざす。
「もう泣かない。これからは僕が魔法使いになるから。だから母さん、我慢しないで泣いていいんだよ」
母さんは顔をくしゃっとさせて涙目で笑った。
 




