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今日のおはなし  作者: 溝口智子
金の糸 15
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ばあちゃんの魔法

ばあちゃんの魔法

ばあちゃんが癌で死んでから、尚は自分の部屋に閉じこもるようになった。

尚はばあちゃんが大好きで小学校から帰ってくると、一番にばあちゃんの部屋に駆けていった。


ばあちゃんの部屋は南向きの和室で、縁側からばあちゃんが育てている花が見えた。ばあちゃんはいつも座椅子に座って庭を見ていた。


尚は自分の部屋で枕に顔を押し付けて泣く。母さんに知られたら「いつまでも泣くな」と叱られてしまうから。

叱られると尚はますます悲しくなる。


そんな時いつも尚は、ばあちゃんの所に逃げていったのだ。そうするとばあちゃんが元気が出る魔法をかけてくれた。


「尚、目をつぶって、あーんってしてごらん」


言われた通りにすると、舌にぽとりとなにかが落ちてきた。

それは少しひやりとして、やわらかく甘かった。尚は目を開けてばあちゃんにたずねた。


「これ、なに?」


「魔法の薬だよ。尚が元気になるようにね」


そう言ってばあちゃんはパチリとウインクしたのだった。


尚は母さんに見つからないように、そっとばあちゃんの部屋に入った。

ばあちゃんの座椅子に座ってばあちゃんが見ていた庭を見る。また泣きそうになって、尚は座椅子の肘掛けをぎゅっとにぎった。


カタリ、と肘掛けが音をたてた。よく見ると、肘掛けには小物入れがついていて、開くようになっていた。


開けてみるとそこには手紙が入っていた。ばあちゃんの文字だ。「尚へ」と書いてある。

尚は急いで手紙を開けた。


『尚へ。

尚がこの手紙を読んでいるとき、ばあちゃんはもう死んでるでしょう。

尚はずっと泣いてるでしょう。ばあちゃんは尚に魔法をかけに行ってやりたい。

でも、天国は一方通行なの。来てしまったら帰れない。

だから尚に魔法の薬を残して行きます。これからは自分で魔法を使うんだよ。

ばあちゃんは天国から見ています。』


手紙の下には小さな箱が入っていた。開けてみると中にはいつもばあちゃんがくれた魔法の薬があった。尚は一つつまんで口に入れた。

でもそれはただの和三盆糖なのだ。尚はずっと前から知っていた。

けれど、和三盆はばあちゃんの姿をしっかりと思い出させてくれた。


「ちちんぷいぷい、強い子になあれ」


ばあちゃんが言ってくれた魔法の言葉を口にすると、尚は箱を元に戻して立ち上がった。


ガラリとふすまが開いて母さんが入ってきた。


「尚!また泣いてるの!いつまでもメソメソしないで!」


尚は笑顔でふりかえる。母さんはビックリして口を閉ざす。


「もう泣かない。これからは僕が魔法使いになるから。だから母さん、我慢しないで泣いていいんだよ」


母さんは顔をくしゃっとさせて涙目で笑った。

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